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預貯金の相続手続き・・・(2016.10.15) 

相続が発生しますと各種手続きが必要となります。
死亡届の提出、電気、ガス、水道の名義変更、準確定申告の手続き等その他もろもろです。

今回は相続が発生した時の預貯金の手続きにつきまして概略のお話をさせていただきます。

預貯金の相続手続きにつきましては、金融機関により多少、異なりますが必要な書類としましては、預金通帳、依頼書(金融機関指定の書式があります)、戸籍謄本(相続人)、除籍謄本等(被相続人)、印鑑証明書(相続人)等の書類の他に、遺言書があれば遺言書若しくは遺言書が無ければ遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書などとなります。

依頼書は相続人全員の意思を示すものとなり依頼書に相続人全員の実印を押印し相続人全員の戸籍謄本(現戸籍のみで構いません)と遺産分割協議書をそろえてその証明となります。ただし、遺言書がある場合は相続人全員の実印などは不要となります。

書類の中で注意が必要なのが被相続人の除籍謄本等の取り寄せが大変な場合がある事です。
【除籍とは戸籍に記載された人が婚姻や死亡で全員、いなくなったり、他の市町村に転籍した場合の戸籍をいいます。相続手続き上は、被相続人の死亡直後の戸籍だけではなく、出生から死亡までの全戸籍が必要となります(結婚や離婚を繰り返している場合などは、過去の全戸籍がないと、法定相続人の子供全員の確認が出来ないからです)ので全戸籍の取得にかなり手間がかかる場合があります。】

被相続人の取引されていた金融機関ごとに必要な書類が微妙に異なったり、提出した書類を返却してくれる金融期間、返却してくれない金融機関とか、対応はまちまちとなりますので書類取り寄せの前に各金融機関に事前に電話などで、必要な書類や手続きの流れを確認される事をお奨めいたします。

相続手続きは、本当に手間がかかり相続人の方の負担が多いものと思います。

あらかじめ、必要な相続手続の確認をしておきましょう。   

相続税について・・・(2016.10.16)

本日は、相続財産がいくらあると相続税がかかってきそうなのか、おおよそのお話をしたいと思います。

ここ10数年間で、毎年、お亡くなりになられた方の中で、相続税が発生しているケースは約4~5%程度です。

相続税には基礎控除がありまして、昨年までは5,000万円+1,000万円×法定相続人の数までは、非課税となっていましたが、昨年からはその60%、つまり3,00万円+600万円×法定相続人の数に改正となりました。

基礎控除額の減額に伴って、今までの4~5%の割合で課税されていたたものが、おおよそ、その倍近くにるやもしれないとも言われています。

仮にお父様がなくなり、法定相続人がお母様と2人の子供の場合は、4,800万円までは相続税がかからないという事になります。

相続財産の中で不動産の評価は、土地に関しましては路線価の付されている地域の土地に関しましては路線価価格に土地の形状その他の要因による増減率(角地・不整形地・奥行長大地など)を乗じたうえで土地の面積を乗じて算出します。

又、路線価の付されていない地域は固定資産税の評価額に地域ごとに定めらています倍率を乗じて算出します。(路線価と倍率表は国税庁ホームページでご欄いただけます。)

一般的に、路線価は実勢相場より多少、低い価格となっておりますので不動産の相続税評価は売買金額のおおよそ7~8割程度(地域と時勢によってかなり異なりますが・・)となることも多いです。

つまり、法定相続人が2~4人程度の場合、全相続財産が6000万円を超えるか否かが相続税がかかってくるかどうかのおおよその目安となります。

ただし、法定相続人の数にもよりますし、財産の種類によって評価方法が異なってまいりますので注意をする必要があります。

他、借入金等の債務があれば債務控除として差し引きますし、基礎控除以外にも土地に関しましては小規模宅地の特例(事業の用に供している土地で400㎡まで80%減、住居に供している土地で330㎡まで80%減、アパート等の用に供している土地で200㎡まで50%減、尚、小規模宅地等の特例の適用可否は詳細の要件の確認が必要となります。)がありますし、他にも配偶者税額軽減の特例などさまざまな特例がありますので、6000万円を超えても相続税がかからない可能性もあります。

このような相続増税時代にむけて、将来の相続税のご負担については、かなり、気になられる事と思います。

まずは、現状で幾らくらいの相続税がかかってくるものなのか、かかってこないものかを確認されることをお奨めします。

そのうえで、贈与税や相続税の特例を上手に利用して将来の相続税を少しでも下げられる、もしくはなくしてしまう工夫をしておきたいところです。

自分の持っている財産に幾らの価値があるのかを、先ずは把握してみましょう。    

 相続人と相続分について(2016.10.17)

今回は、相続に関する民法の規定の内、相続人についてお話させていただきます。

①相続とは、被相続人(死者)が生前に持っていた財産上の権利義務を、他の者が包括的に承継することとされています。

相続が発生すると、相続人は被相続人の財産に属していた一切の権利義務(一身に専属していたものを除く。)を、包括的に承継します。

その期間、遺産は、法定相続分の割合で共同相続人間で共有します。

その後、通常は遺産分割によりこれを各相続人に具体的に分割することになります。

遺産分割を行うと、分割した遺産は相続開始の時にさかのぼって、各相続人の単独所有に移ります。

②相続人:民法は、相続人を配偶者と血族相続人と定めています。

血族とは、血の続いた親族をいいますが、養子は血族としての地位を保ち、実子と同様に取り扱われます。

相続人となる血族は、直系卑属(子、孫、ひ孫等)、直系尊属(親、祖父母、曽曽父母等)、並びに兄弟姉妹の3種類からなり、この血族相続人には次の相続順位があります。

まず第1順位が子(代襲者を含みます。)です。第1順位が全くいない場合に第2順位の直系尊属(まず親、親がいないときは祖父母というように親等の近い順)が相続人となります。

第1順位、第2順位とも誰もいないときに、第3順位の兄弟姉妹(代襲者を含みます。)が相続人となります。

被相続人の配偶者(婚姻届の出されている法律上の夫、または妻を言う。)は、各血族相続人と並んで、常に相続人となります。

但し、以上の法定相続人であっても、次の場合は相続人となることは、出来なくなります。

『相続欠格』・・故意に被相続人や先・同順位の相続人を殺害する等により処刑された者、詐欺・脅迫により遺言の偽造や隠匿をした者、これらの者は法律上当然に相続人の資格を失います。

『排除』・・推定相続人(被相続人が死亡した場合に相続人となりうる者)が、被相続人を虐待する等の著しい非行があった場合には、被相続人が推定相続人の排除を家庭裁判所に請求し、裁判所が排除を審判により決定すれば、その推定相続人は相続権を失います。

ところで、本来法定相続人であった子や兄弟姉妹が、相続開始前に死亡していた場合には、これらの子が相続人となります。


これを代襲相続人といいます(但し兄弟姉妹の代襲相続は子の一代限りとなります)。

代襲相続は本来の相続人が亡くなっていた場合の他、上記の相続欠格や排除により相続権を失った場合にも成立しますが、相続放棄をした場合には該当しません。

なお、先の法定相続人が誰もいないときは、最終的には国庫に帰属することとなります。

具体的には、まず相続財産を法人としたうえで相続財産管理人にその管理・精算を委ねます。

その後相続人捜索人の広告をしたうえで相続人の不存在を確定します。

その上で、被相続人の特別縁故者(内縁の妻など被相続人と生計を一にしていた者や療養看護に努めた者等)の請求があった場合に、裁判所がこれらの者に一部又は全部を分与し、残ったものが国のものになります。

 相続人と相続分Ⅱ(2016.10.18)

  今回は、前回の続きとしまして相続人としての養子の要件と相続分についてお話させて頂きます。

①養子について

養子は人為的につくられた親子関係です。

養子関係は、婚姻と同様に役所への所定の届出により行う縁組によりその効力が発生します。

養子縁組の効果は、縁組の日から養子が養親嫡出子たる身分を取得することとなることです。

したがって養親子は、相互に相続権および親族的扶養義務を負います。

同時に、養子と養親の血族との間にも親族関係が発生します。

さらに養子は養親の氏を称しなければなりません(しかし多くの既婚者である女性のように、結婚により氏が改まった者はその必要はありません。)

但し、次のような要件を満たしていないと、縁組は不成立(無効)になります。

・縁組の意思が合致していること(単なる方便のみでは不可)。

・養親となる者は成年に達しており、かつ養子より年長であること。

・直系卑属でない未成年者を養子にする場合は、家庭裁判所の許可を得ること。

・配偶者のある者が未成年者を養子にする場合は、原則として夫婦が共同して縁組すること。

・配偶者のある者が養子になる場合には、他の配偶者の同意を得ること。

養子縁組の当事者は、協議離婚と同じように、話し合いで離縁することができます。

離縁がなされれば、ほぼ従前の関係に戻ります。

なお上記で説明しました『普通養子』の他に、総和62年の民法の改正により『特別養子』制度が創設されています。

一言でいえば、実親が育てることのできない赤ん坊を、全くの実子同様に育てようとする人が養子にするためのものです。

したがって、養子は6歳未満の幼児であること、縁組により実親等との法律上の関係は消滅すること、離縁は許さないこと等が原則規定とされています。

さらに、戸籍上も一見しただけでは養子であることが分からない措置がとられています。

②相続分

相続分とは、相続財産に対する配分の割合をいいます。

民法は以下のとおり相続分を定めています。

これを『法定相続分』といいます。(なお遺言で相続分が指定されているものを『指定相続分』といいます。)

ただし、相続人の意見の一致により遺産分割協議が整うのであれば、法定相続分に拘束される必要は全くありません。

現実にはほとんどの場合、遺産分割協議書の作成等により、自由な割合で遺産を分割しています。

①配偶者と子(第1順位)が相続人である場合は、相続分は各2分の1

②配偶者と直系尊属(第2順位)が相続人である場合は、配偶者の相続分が3分の2、直系尊属が3分の1。

③配偶者および兄弟姉妹(第3順位)が相続人である場合には、配偶者の相続分が4分の3、兄弟姉妹は4分の1

④子、直系尊属または兄弟姉妹が複数いる場合には、各自の相続分は(年齢、性別にかかわらず)等しいものとする。

⑤父母の一方のみの兄弟姉妹(半血兄弟)は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分と同等となりました。

⑥代襲相続人の相続分の合計は、非代襲者(死亡していた相続人等)の受けるべきであった相続分と同じ割合とする。

以上、『養子』と『相続分』についてお話させていただきました。

なお、相続が発生した場合には、先ず、相続人の確定が必要となります。

相続人の確定には被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの全戸籍を集める必要があります。

全戸籍には、除籍(戸籍記載の全員が結婚・死亡・転籍などでいなくなった戸籍)や改製原戸籍(法改正で様式が改められる前の古い戸籍)も含まれます。

これは法定相続人の中でも第1順位となる子を確定するためです。

離婚した前妻との間に子がいたり、隠し子を認知していたりすれば、現戸籍には記載がなくても、必ず過去の戸籍をさかのぼれば確認が出来るからです。

他にも、預貯金や株式、不動産などの名義書き換えのたびに、金融機関などの手続き先への提出が求められます。

複雑なケースでは、必要なすべての戸籍を取得するのに1カ月以上かかることもありますので、

早め早めの対応をお奨めいたします。

何事も早め早めの対応を・・・

備えあれば憂いなしです。     

 遺産分割協議について・・・(2016.10.19)

今回は、『遺産分割』に関する民法上の規定を、お話させて頂きます。

【遺産分割】

(1)相続放棄等

相続は自動承認の形をとっています。

すなわち相続人は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に相続の放棄または限定承認をしない限り、相続を単純承認したことになります。

単純承認(限定承認でないという意味)をした場合には、被相続人の権利義務を承認したことになります。

したがって、相続財産よりも相続債務の方が多い場合等には、上記の期間内に家庭裁判所に対して相続放棄の手続きを行うことができるわけです。

放棄した者は、初めから相続人でないものとされます。

すると、次順位の者が相続人に浮上します。

その結果、相続人が大借金を残したことことが明らかな場合には、第3順位までを含めた相続人が全員放棄の手続きをしないと、誰かがとんでもない貧乏くじを引くことになりますから、注意が必要です。

(2)遺産分割

遺産を配分する方法には優先順位があります。

まず遺言があればこれに従います。

2番目、遺言がなければ相続人全員で協議して決めます。(法定相続分は参考程度)。

この協議が整わなければ家庭裁判所に持ち込んで調停や審判に委ねます。

この場合の判断の基準は法定相続分となります。

上記の2番目が遺産分割です。

一般の相続の7~8割以上がこれによっているものと思われます。(遺言はまだ少数派です。)

なお遺言があっても、法定相続人や受遺者の全員が、これ以外の配分の方法による遺産分割に合意した場合には、実務上それが認められています。

民法等のどこにもそのような規定はないのですが、「無理に遺言を強制してもしかたない」ということのようです。(税法もOK)。

分割協議が成立すれば、通常は遺産分割協議書にその内容を記載して相続人全員が署(記)名捺印します。

逆に1人でも反対者がいれば、協議分割は不成立となります。

この場合は家庭裁判所での調停、審判となります。

こうなると家族の絆にひびが入ってしまいます。

このようなことが予想される場合には、あらかじめ遺言を書いておくべきでしょう。

なお相続税の申告の際には必ず税務署に提出します。

また不動産を相続登記する場合には、遺産分割協議書が登記原因証書になるため、実印の押印が必要となります。

以上、今回は民法の『遺産分割』についてお話させていただきました。

相続が発生した時に、相続税が生じる、生じないに関わらず、相続人の円満な遺産分割が最重要と考えます。

したがいまして、円満な遺産分割のための対策が相続発生前の相続対策の最優先事項と考えます。

それには、先ず、ご所有財産、特に不動産の棚卸調査(財産診断)を基にした財産の現状分析を行う事が大切です。

ご所有の不動産の内には、駅前の事業に適した土地もあれば、優良な住宅団地の中で住宅には申し分ないですが事業(アパート他)には適さない土地や調整区域で売却や活用に制限がかかる土地など、多種多彩な特徴があります。

納税が発生する時には、納税用の資金の準備をどうするのか?

納税資金の方法の見通しがたったら、各相続人への分割をどの様に配分するのかの検討が必要となります。

相続が発生してから、ご所有財産を見直すのではなく、あらかじめ、現状分析を行った上で、納税方法、分割方法、、節税方法、や保険の活用等を検討しておく事が重要となります。

 遺産分割方法について2016.10.20)

(1)遺産分割方法

分割協議の成立後に勘違い等で、分割協議書を作り直すこともあると思われます(中には協議書の書き間違いもあるでしょう)。

むろん皆の合意の下で作り直せばいいのですが、大きな問題が一つあります。

事実上税務署がこれを認めようとしないのです。

つまり「それは分割のやり直しではなく贈与だ」というのです。

税務署側にしてみれば、これを認めたら一般の贈与すら皆「遺産分割の修正」と逃げられてしまうのではないか、と考えるのです。

ですから、一度税務署に提出したもの等は、訂正が効かない(民法に「錯誤は無効」の規定があるとしても、国税側にこれを立証することは困難でしょう)と思っていただきたいのです。

民法は、遺産分割の方法として、現物分割、代償分割、換価分割、共有とする分割の4種類を定めています。

内容は読んで字のごとしで、現物分割とは、遺産を現物のまま分割する方法で、換価分割とは、共同相続人が遺産の全部又は一部を金銭に換価し、その代金を分割する方法ですが、このうち代償分割が実務上極めて大切です。

代償分割とは、ある相続人が特定の遺産を相続する代償にその相続人がその固有資産(通常金銭)を他の相続人に支払う、というものです。

たとえば、遺産は長男が同居している自宅のみで他に何もない場合に、長男がこの自宅を単独で相続する代わりに、他の相続人に対して長男がたとえば1,000万円を支払う、といったケースです。

これは一見遺産の売買のように思えますが、民法が遺産分割として定めている以上、売買ではないのです。

使い方次第では、代償分割は相続対策や節税対策にかなり有効となります。

相続人の中には、諸般の事情からあえて遺産の取得を希望しない人もいます。

その意思を表すために先の家庭裁判所に相続放棄の手続きをするケースもあるそうです。

しかし何もそんな面倒なことをする必要はないように思います。

要するに、当人に遺産の配分がないと記載されている遺産分割協議書に押印すればよいのです。

実務上大半はこれにより事実上の相続放棄を行っています。(わずかではありますが、相続放棄を行うと相続税の取り扱い上で不利になることもあります。)

(2)特別受益と寄与分

相続人の中には、被相続人から婚姻や生計の資本等のために多額の生前贈与や遺贈(遺言による贈与)を受けていることもあります。

これらの生前贈与や遺言を受けた相続人を特別受益者、受けた利益を特別受益といいます。

民法は相続の公平の見地から、具体的な相続を査定する(事実上の遺産分割)に当たっては、特別受益分を遺産に持戻した(加算した)ものを相続財産とみなしたうえで、決定すべきことを定めています。

なお、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金は、遺産ではなく保険金受取人の固有資産と考えられています。

したがって、死亡保険金は遺産分割の対象とはなりません。、

この点は死亡退職金も同様とされています。

一方相続人の中には、被相続人の事業に関する労務の提供や被相続人の療養看護等により、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした人がいる場合もあります。

この場合には、その者の寄与分を加算した額を寄与者の相続分とする旨定められています。

なお、長男の嫁等は相続人ではありませんから、寄与分の規定は適用できません。規定の対象者は相続人に限定されている点に留意して下さい。

以上の特別受益や寄与分についての規定は、実際の円満な遺産分割においては『私は親の面倒をみたのだから・・・』とか『私は既にこれだけもらっているのだから・・・』といった形で常識的な考え方として生かされています。

具体的にこの規定がモノをいって来るのは、家庭裁判所における調停・審判の場であろうと思われます。

今回は『遺産分割方法』と『特別受益と寄与分』につきまして、お話させていただきました。

遺言について・・・(2016.10.21)

1・遺言の要式性

遺言は死後に効力が生じるため、その真実生や内容が問題になっても遺言者に確認することができません。

したがって遺言者の真意を確保するために、遺言には一定の方式が要求されています。

その意味から遺言の形式は、次の3種類に限定されています。(これ以外にも死亡応急者の遺言等の特別の方式が4種類定められています。)

①自筆証書遺言

これは遺言者が、その全文、日付および氏名を自書したうえで、これに印を押さなければなりません。

さらに遺言者の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示しこれを変更した旨を付記したうえで、これに署名押印しなければその効力が生じないこととされています。

留意点は、全文を自書することです(ワープロなどは不可)。

日付は、複数の遺言が存在した場合の優先を判定する意味にも重要です。

押印は実印である必要はありません。

自筆証書遺言は、3種の方式のうち最も簡単な方法です。

とにかく上記の指示のとおりに書くだけでできてしまします(書き誤りの訂正方法は多少やっかいです。

謝ったら書き直せばいいのです。

なお、遺言書は特に密封する必要もありません)。

他の方法が面倒であれば、この方法で十分であろうと思われます。

ただし紛失や変造等のおそれがないわけではないことや、保管方法にも工夫を要することにもなりましょう。

②公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場の公証人に遺言書を作成してもらう方法です。

多少手間がかかることと費用(相続財産に応じて10~30万円位?)を要することが欠点といえましょう。

さらに2人の証人も必要となります。

しかし紛失や隠匿のおそれが全くなく、秘密の確保は十分。相続発生時においても家庭裁判所の検認を受ける必要はなく、遺言内容の効力についても全く心配ありません。

要するに百パーセント確実な遺言を残そうとするのであれば、公正証書遺言に限るのです。

③秘密証書遺言

この方式は、とにかく内容を一切誰にも知らせない状況で作成するためのものです(欠点が多く、実際にはほとんど利用されていないようです)。

したがって書面自体には方式はなく(ワープロも可)、ただこの遺言書に署名と押印したうえで、公証人と証人の立会いの下でこれを封入するのです。但し公証人等は遺言内容をチェックしているわけでなく、不明確な内容である場合等後日の紛争が気がかりとなります。

また遺言書の保管も公証人が行うわけではありません。

2・遺言の効力

遺言は遺言者の意思表示のみで成立する単独行動です。

一般の契約のように相手側の承諾は一切不要なのです。

さらに遺言の効力は、遺言作成(意思表示)の時ではなく、遺言者の死亡の時に初めて生じます。この点も一般の契約と異なる点といえましょう。

遺言により財産を贈与することを遺贈といいます。

遺贈によく似たものとして死因贈与があります。

死因贈与とは『死んだら贈与する』という約束です。

贈与者の死亡により効力を生じる点は遺贈と同じですが、死因贈与はあくまで契約(双方の意思の合致)であり、受贈者側の承諾を必要とするのです。

ただし、相続税法では死因贈与を遺贈とみなす、と定めています。要するに両者を同一視して取り扱うのです。

さてご承知のように遺言者は、いつでもその遺言を取り消すことができます。

実際に遺言書を破棄してもいいし、新たに遺言書を作成してもかまいません。

日付の古い遺言書で新しいものと抵触する部分は取り消されたものとみなされるからです。

遺言書の保管については、民法には何の規定もありません。

遺言者が自らの責任で保管するわけです。

保管者としては遺言によって守られているであろう配偶者等が多いようですが、友人や弁護士である場合、さらには貸金庫に置いておく等、多岐にわたるようです。

いずれにしても内容が漏れたり、破棄や隠匿されないような工夫が必要となります。

3・遺言の執行

一般に遺言の内容を実現することを、遺言の執行といいます。

まず、その準備行為として、遺言書を家庭裁判所へ提出して、その検認を受けなければなりません。

検認は、遺言者が真に遺言者の作成したものであるかどうかを確かめ、その保存を確実にするために行われる一種の証拠保全手続きとされています。

したがって、これらを要しない公正証書遺言には、検認手続は不要です。

ただし、検認は遺言者の正当を立証するわけではありません。

検認を経ていないからといって、遺言が無効になるわけでもありません。

しかしその一方で、検認を受けていない遺言書では、登記所が受け付けてくれないのも事実です。なお封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人(代理人)の立会いのもとで開封すべき旨定めらています。

遺言は一般に相続人間の利益が相反する場合が少なくありません。

相続人に遺言の執行をさせることは適当でない場合が少なからずあるのです。

さらに遺産の内容によっては、その執行や処理に専門的な知識を必要とする場合もありましょう。

したがって、このようなケースでは、遺言で適任者を遺言執行人に指定しておくことが適当かと思われます。

遺言執行人とは、いわば遺言者の代理人の立場で遺言の内容を実現していくべき人です。

実際にも少なからぬ遺言で、これが指定されているようです。

なお、遺言による受贈者が法定相続人ではない場合には、不動産の相続登記に際して法定相続人(登記義務者)の実印が必要となります。

しかし遺言執行人が指定されていれば、この印は不要です(公正証書遺言も同様)。

このような場合には、必ず遺言執行人を指定しておくべきといえましょう。

以上、民本の規定による『遺言』について、お話させていただきました。
 

 相続財産について・・・(2016.10.22)

本日は、相続税の対象となる『相続財産』について簡単にお話させていただきます。

『相続財産』

(1)本来の相続財産

相続開始に際しては、被相続人に属していた一切の権利義務(一身専属権を除く)が、相続人に相続されます。

この相続財産が課税対象とされるわけですが、これは具体的には、金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいうものと解されています。
すなわち不動産や金融資産に限らず、理屈の上では庭木庭石の一本一個に至るまで課税対象となるのです。

具体的には、物権、質権、無体財産権から電話加入権や営業権等、経済価値が認められるものすべて(あくまで経済的価値のあるものに限られます)となります。ただし質権、抵当権等は独立した財産ではないため課税の対象外です。


(2)みなし相続財産

生命保険契約においては、被相続人を被保険者とし、保険金受取人を配偶者や子とする契約を、被相続人自身が契約(当然保険料も被相続人が負担)する場合が多いものと思われます。

この場合で被相続人が死去すれば、当然保険金受取人(たとえば配偶者とする)に保険金(1,000万円とする)が支払われます。

この死亡保険金1,000万円は、民法上は相続財産ではなく、配偶者固有の財産と考えられます。

つまり1,000万円は、配偶者が保険金受取人という立場でしたものであって、遺産として相続したものではない、というわけなのです。

しかし相続税法は、このような死亡保険金は事実上相続財産と同様の効果があるとして、相続財産とみなして相続税の課税対象としています。(契約形態によって相続税が課されない場合には、死亡保険金の受取人には所得税税等が課されるものと思われます)。

したがって、このようなみなし相続財産は民法上は遺産でないため、原則として遺産分割の対象とすべきではありません。

さらに、不用意に遺産分割協議書に本来の保険金受取人以外の者を取得者として記載すると、贈与の問題が生じかねませんので注意が必要です。


(3)みなし相続財産には、具体的には次のようなものがあります。

①生命保険金等

被相続人が保険料を負担していた生命保険金を、被相続人の死亡により相続人またはそれ以外の者が取得した場合には、前者の場合は相続により、後者(相続人以外の者が取得)の場合は遺贈により取得したものとみなされます。

偶然な事故に基因する死亡に伴い受け取る損害保険契約に基づく保険金も同様です。

この場合、相続とみなされる(受取人が相続人)か、遺贈とみなされる(それ以外)かは大きな差が生じます。

後者では、『法定相続人1人当たり500万円』の非課税規定が受けられないからです。

なお保険金の受け取りの際には、通常割戻し金または前納保険料等を受け取りますが、これらもみなし相続財産としての受取保険金に含むものして取り扱います。

逆に契約者貸付金や未払保険料として保険金から控除されたものがある場合にも、原則として控除後の金額を受取保険金として取り扱います。

②死亡退職金

被相続人の死亡に基因して、相続人等が被相続人に支給されるべきであった退職金を受け取った場合(死亡後3以内に支給が確定したものに限る)、この退職金も相続財産であるとみなされます。

なお、相続人が支給を受けた場合に限って相続とみなされ、『法定相続人1人当たり500万円』の非課税規定を受けられる点は、死亡保険金の場合と全く同じです。

この場合、退職金の支給を受けるべき者とは、
 
・まず退職給与規定等に定めのある場合は、その規定のとおりとする(通常、大企業や役所では配偶者と定められているようです。)

・規定がない場合には、実際に取得した者(相続人全員で取得者を決めた場合はその者)とする。

とされています。

要するに、規定がある場合にはそれに従い、ない場合は基本的には相続人等の任意ということになりましょう。

③生命保険契約に関する権利

被相続人が子供や孫を被保険者とする生命保険契約(掛捨保険を除く)に関する保険料を支払っていた場合に相続が発生した場合には、生命保険契約の権利が相続財産として次のとおりカウントされます。

まず子や孫という若い人を被保険者とした場合に支払った保険料は、(被保険者は滅多に死亡しないため)いわば預金のようなものです。この場合、保険契約者が預金者の地位にあります。

つまり、契約者がこの預金(保険)を解約すれば払い込んだ保険料全額程度を手にすることができるのです。

このように被相続人が保険料を支払っていた場合には、保険契約者には『生命保険契約の権利』として相続財産に計上される事となります。

さて、被相続人が保険料を払っているということは、通常はその被相続人が保険契約者であろうと思われます。

その場合には、この生命保険契約の権利は本来の(つまり民法上も)相続財産となります。

但し、稀に被相続人と別の人が、保険契約者である場合があります。

この場合には(民法上は、この権利は保険契約者に帰属することになりますが)これを相続財産とみなすわけです。

④定期金に関する権利等

郵便年金契約等の定期金給付契約で被相続人がその掛金(保険料)を負担し、かつ被相続人以外の者が契約者あるもの、についても上記③と同様の理由からみなし相続財産となります。

相続税の『非課税財産』と『課税価格の計算』について・・・(2016.10.23) 

本日は、相続税の『非課税財産』と『課税価格の計算』について、お話させていただきます。


1・非課税財産

以下の財産は、社会政策的見地や国民感情等を配慮して非課税とされています。

(1)墓所、霊びょう、祭具等

要するにお墓の類です。墓地、墓石をはじめ神棚、神体、神具、仏壇、仏具、位牌等です。

ただし、これらのものであっても、商品や投資対象として所有されているものは含まれません(以前相続税対策として、純金で仏壇を作って非課税を主張した人がいたため、国税庁がこのような通達を作ったそうです)。

(2)一定の生命保険金、退職金

相続人の生活安定の見地から、相続人が(相続でない者は不可)取得した生命保険金や退職金のうち、それぞれ一定の非課税限度額までの金額は非課税です。

非課税限度額は・・・

『500万円×法定相続人の数』です。

この場合の法定相続人の数は、基礎控除を計算する場合と同じ(相続放棄者も含む、養子の数は制限)です。

一方『相続人が取得した』という場合の相続人は、純粋に民法の定める相続人をいいます(特にことわりがない場合は、『相続人』の用語はこのように理解して下さい。)すなわち正式に相続を放棄した者(相続人ではない)が受け取った保険金等には、非課税規定は適用されないのです。

なお、複数の者が保険金等を受け取った場合において、その合計額が非課税限度額を超える場合には、各人が適用を受けるべき非課税金額は、受け取った保険金等の額で按分することになっています。

(3)国等への贈与財産

相続財産を相続税の申告期限まで(相続発生後10ヶ月)に、国や地方公共団体、さらには公益を目的とする事業を営む法人のうち一定のものに贈与した場合には、その贈与財産は相続税の計算上非課税とされます。

この公益を目的とする法人はかなり多岐にわたっています。

(4)特定公益信託
相続財産である金銭を、相続税の申告期限までに特定公益信託の信託財産として支出した場合には非課税となります。

(5)その他

その他以下のうち、一定のものが非課税とされています。

・公益事業を行う者が取得した公益事業用財産

・個人立幼稚園の教育用財産

・心身障害者共済制度に基づく給付金を受ける権利

以上『非課税財産』についてお話させていただきました。


続いて、相続税の課税価格の計算についてお話させていただ、あす。

続税の課税対象となる遺産の額を課税価格といい、本来の相続財産やみなし相続財産を加算することにより求めます。

さらにこの額に、相続開始前3年以内の贈与財産を加算し、一定の債務や葬式費用を控除します。

(1)3年内贈与財産
 
相続人等が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けている場合は、その受増財産はその相続人等の相続税の課税価格に加算されます。

要するに、その贈与はなかったものとみなされるわけです。

なかったものとみなされた贈与に関して、既に支払い済みの贈与税があれば、この額は相続税の前払いと考え、相続税額から控除されます。これが、贈与税額控除の規定です。
 
この場合、贈与がなかったものとみなされる対象は、相続または遺贈により財産を取得した人に限られます。

したがって、相続人ではあるが財産を全く取得していない人や、遺言で財産を取得していない一般の人は、相続開始前に贈与を受けていても何の問題もありません。
 
なお、『相続開始前3年以内』とは、3年前の応答日以降をいい、相続財産に加算される財産の価額は、贈与時の価額(相続開始時点のものでない)です。

ただし、贈与税の配偶者控除の規定(婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与の特例)を受けた贈与は、加算の対象外とされています。

(2)債務控除
 
相続税の課税価格の計算においては、プラス財産は加算される一方、債務といったマイナス財産は当然減算されなければなりません。

これが債務控除の制度です。
 
ただし相続税法は、債務控除の対象者を相続人と包括受遺者(遺言で包括遺贈を受けた者)に制限しています。

つまり遺言によって特定の財産を取得した相続人以外の人には適用がないのです。

したがって、遺言で相続人以外の人に借金付きのアパート等を残すことは、お勧めできないわけです。

さらに、制限納税義務者(住所が国内にない人)に対する債務控除の範囲にも一定の制限があります。(公租公課や取得財産に関連する債務はOK)
 
債務控除の対象となる債務は、相続開始の際に現に存するもので確実と認められるものに限られています。

したがって保証債務は、既に債務者が弁済不能で保証債務の履行をせざるを得ない状況等でないと、債務控除の対象にならないことになります。(この点は実に厳しい判定をなされてしまいます。)
 
被相続人の所得に対する所得税(相続開始の年の準確定申告によるものを含む)や、固定資産税等も、当然債務控除の対象となります。

なおこの固定資産税は、その年の1月1日現在の所有者が納税義務を負うこととされているため、仮に2月に相続開始した場合であっても、その年分の金額が(むろん納期限はまだ先であっても)債務控除の対象となります。

(3)葬式費用
 
葬式費用は、相続に伴い必然的に生じる出費であり、相続財産から負担すべき費用とも考えられることから、債務と同様に、これを負担した者の課税価格から控除することとされています。
 
葬式費用の控除は、債務控除の一種として定められています。

したがって、相続人以外の特定受贈者は控除の対象となりません。また制限納税義務者も同様です。
 

控除の対象となる葬式費用は、葬式およびこれに関連した費用(お布施、戒名、各種飲食代等)の他、死体の捜索や死体、遺骨の運搬に要した費用も含みます。
 

ただし、初七日等の後日の法会に要する費用や、墓碑や墓地の購入日、医学上等の特例の処遇に要した費用は控除の対象外です。

さらに香典返戻費用も対象外となります。

そもそも香典収入(遺族への贈与)が贈与税の上で非課税とされており、その裏返しとしての香典返礼費用は、控除の対象からはずしたわけです。
 
なお相続税の申告に関しては、証拠書類として葬式費用の領収書(コピー)を添付するケースが多いのですが、領収書がないから控除できない、ということはありません。

事実お布施や運転手さんへの心付け、近所の人達へのお礼等の領収書は、事実上もらえないものです。
 
しかし、これらの支出も当然控除対象となります。したがって、これらの支出額はしっかりメモしておきたいものです。

(4)未分割の場合
 
相続税の課税価格は、税額または遺贈により財産を取得した者ごとに、取得財産の価額を計算し、その合計額に基づき相続税額の総額を計算する手順となっています。
 
しかし相続人が複数いる場合において、遺産の配分で争いが起きること等により、相続税の申告期限(相続開始後10ヵ月)までに、遺産の分割の合意が得られないケースもないわけではありません。

このように、遺産が未分割(一部の未分割を含む)の場合には、その未分割財産は、法定相続分で分割されたものと仮定して課税価格を計算し、税額を算出することとされています。
 
さてその後において、遺産分割が成立した場合においては当然各相続人が負担すべき相続税額と、未分割の段階における当初申告による税額は異なってきます。

そこで税法は、このズレを修正させるべき申告書(修正申告書等)を提出することができるものと定めています。
 
ここで留意すべきは、税法の条文の末尾である『提出することができる』という規定です。

つまり修正申告してもいいし、しなくてもいいのです。相続税の総額は遺産の分割状況によって全く変わりませんので、『相続人間で税負担の不公平があると思えば申告してもいいですよ』と言っているにすぎないのです。


以上、『非課税財産』と『課税価格の計算』についてお話させていただきました。


 金融資産の相続税財産評価・・・(2016.10.25)

さて、今回は相続税の財産評価の内、『金融資産の評価』についてお話させて頂きます。

■金融資産

(1)預貯金
 
預貯金は、課税時期における預け入れ残高に、税引き後の既経過利子の額を加算した金額により評価します。
 
既経過利子の額とは、課税時期で解約するとした場合に受け取るべき利息をいい、実際にはこれに20%の源泉所得税が課されるため、これを控除した額を預貯金の元本に加算するのです。
 
要するに預貯金の評価額は、課税時期にその預貯金を中途解約した場合の元利金の手取り額というわけです。
 
ただし普通預金や通知預金のように、既経過利子の額が少額なものについては、課税時期の預入れ残高により評価します。

以上いずれもリーズナブルなルールといえましょう。
 
預貯金には、むろん郵便局の定額貯金が含まれます。

さらに形の上では有価証券に分類されていますが、事実上の定期預金ともいえる貸付信託も、中途解約手取り額の評価(買取割引額を算入)と考えてもよいものと思われます。

(2)一般の有価証券
 
①利付公社債
 
利付公社債の評価は、その発行価格(券面金額ではありません。通常発行価格は、券面金額100円に対して99円と異なった額になっています)に、税引後の既経過利子の額を加算したものとなります。実務上は、券面額100円当たりの金額という単価ベースで算出します。
 
ただし、利付債は確定利付きの債権であるため、金利の変動により流通価格が日々変動しています。

したがって、これらの市場価格が把握できる場合で、その市場価格が発行価格よりも低いときは、市場価格をベースにこれに税引き後既経過利子を加算した額で評価します。
 
②割引債
 
割引発行の公社債の評価も、考え方は上記利付債と同様です。

ただし既経過利子の計算部分を、券面金額と発行価格の差額である『償還差益』を基に行うだけです。

すなわち『発行価格+既経過償還差益の額』で評価するわけです。
 
ただし、この割引債の市場価格が把握でき、かつそれが上記の評価額を下回っている場合には、その市場価格で評価します(割引債の市場価格は、既経過償還差益を折り込んで形成されています)。
 
③投資信託
 
投資信託の受益証券は換金性が高く、また投資している株式等の価額を基として、毎日の時価額が基準価額として日経新聞などに掲載されています。
 
したがって、投資信託の受益証券は、課税時期におけるこの基準価額により評価します(実務上は、これらの投資信託を取り扱った証券会社等の金融機関から基準価格を教えてもらっているようです)。


(2)上場株式
 
上場株式は、日々その株価が公表されているため、その株価を評価のベースとします。し

かし一般に株価はかなり変動するもので、課税時期の株価だけでは、評価額が市場の特殊要因等により左右されかねません。
 
そこで上場株式は、以下の4種の株価のうち最も低いものにより評価することとし、ある程度の期間を通じた取引価格も考慮することとしています。
 
・課税時期当日の終わり値(当日が休日の場合には、当日に最も近い日の終わり値)
 
・課税時期の属する月の終わり値の平均値
 
・課税時期の 前月 の終わり値の平均値
 
・課税時期の前々月 の終わり値の平均値
 
なお、各月の終わり値の平均の株価の資料は、各税務署に備えつけてあり(路線価と同じ場所)、実務的にはこれを見て評価します。
 
ところで、上場株式を保有している場合には、その多くが配当金を受け取っています。課税時期においてこれらの配当金をすべて受け取っていれば問題ないのですが、そうでない場合には、配当期待権や未収配当としての評価を行うことがあります。
 
たとえば、3月決算のA社の株式の配当金10万円(手取りは8万円)を受け取る権利があったとしましょう。

A社は3月末現在の株主宛の配当交付の決定は6月下旬の株主総会で行います。この3ヶ月弱の期間における株主の権利を配当期待権というわけです。
 
6月下旬の株主総会により正式に10万円の配当金交付が決定されても、実際に株主に交付されるのは数週間後です。

この間の株主は、未収配当金としての評価を受けるわけです。

なおこの場合評価額は、配当期待権・未収配当金とも、手取り金額の8万円となります。
 
ところで、株式には上場株式の他、取引相場のない株式(いわゆる自社株式)があります。

この自社株式の評価(事業承継税制)は、かなり複雑ですので、税理士等の専門の方にご相談いただく事をお奨めします。


(3)その他の金融資産
 
①ゴルフの会員権
 
ゴルフの会員権の評価についてはいろいろ規定されていますが、要するに、『取引相場×70%』で評価されています。
 
とはいえ、ゴルフの会員権の取引相場については、今日かなり厳しい状況になっているものも少なくありません。

これらに関しては、評価の基本『客観的な価値』に立ち返って、臨機応変に対処することとなりましょう。
 
②貸付金
貸付債権は、一般にその元本と課税時期までの既経過利子相当額との合計額で評価します。
 
しかし通常貸付が行われる背景には、いろいろな事情がある場合が少なくありません。

そもそも、先方に返す気があるのかどうか、返す気があるとしても本当に返してくれるのかどうか、さらには返す資力があるのかどうか。

むろん相手によってはビジネスライクに『返してくれ』と言えない場合もあります。
 
しかし税法は、その辺のところはおかまいなしに、相続財産に加算してきます。

回収不能として評価する必要なしとされるケースも、相手方に破産宣告があった場合や業績不振等により事業廃止や6か月以上休業している場合等、極めて限定的な取り扱いとなっています。
 
やはり、相続間近となった場合は、これらの貸付金債権は整理(放棄、回収等)しておくべきといえるでしょう。
 
③出資
 
一般の有限会社、合名会社、合資会社等への出資は、取引相場のない株式(自社株式)の評価方法を準用します。
 
しかし、農業協同組合や漁業協同組合等のように、組合員に対するサービス的業務を行う一般的な産業団体に対する出資は、原則として払込済みの出資額によって評価します。信用金庫や信用組合に対する出資も同様です。
 


以上、『金融資産の評価』についてお話させていただきました。
 

 贈与税について・・・(2016.10.27)

本日は、『贈与税』についてお話させていただきます。

1・贈与税とは

(1)相続税の補完税

贈与税は、相続税を補完するための税として設けられたものです。

すなわち贈与税がなかったならば、あらかじめ生前に子供達に財産を贈与して将来の相続財産を減らすことにより、相続税の負担を軽減することができてしまうからです。

要するに、贈与税は相続税を徴収するための手段なのです。
 
むろんこの点だけではなく、贈与を受けた者(受贈者)の担税力の増加に着目しての課税、という側面もあります。

したがって、ともすると『贈与所得』といった所得税の対象にもなりうるわけですが、贈与税の課税対象とされていることから、所得税の課税対象外となっているわけです。(二重課税の排除)。
 
しかし、基本はあくまで相続税の補完税です。

そもそも、贈与税は相続税法の一部として定められています。

贈与税法という法律はないのです。(この点を称してよく『1税法2税目』といいます。ひとつの税法に2種類の税が定められている、という意味です)。

したがって、税の扇の要である税率をはじめ、多くが相続税との関連で規定されています。

贈与財産の評価も相続税評価で行います。
 
贈与税は、個人が個人から贈与を受けた場合に課される税です。

したがって、個人が法人から贈与を受けた場合には、贈与税の対象外です。

むろん非課税というわけではなく、所得税(一時所得)が課されます。

理由は、贈与する法人は相続税と無縁の存在であり、これを補完する必要がないからです。
 
一方、法人が贈与を受けた場合には、法人税(受贈益)が課されます。

ただし、一般に法人税が課されていない人格のない社団(PTA他)等が個人から贈与を受けた場合には、その社団等は個人とみなされて贈与税が課されます。

(2)贈与とは
 
贈与税は、贈与によって取得した財産に対して課税されます。

この場合贈与とは、民法上の贈与をいいます。

すなわち、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えるという意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約をいうのです。(民法549条)
 
しかし、贈与税は単に民法上の贈与のみならず、実質的に贈与と同様の効果を有する行為についても、みなし贈与として課税対象に含めています。 

ところで、本来の贈与であっても、その贈与の事実の把握には困難が伴います。

そもそも贈与であるのかそうでないのか、その贈与はいつ行われたか、が定かでなかったり、贈与税を免れるために外見上は贈与でない体裁をとっていたり、と課税実務上その判定が難しいのです。

しかし、これらに対し手をこまねいてはいられません。まずは外観を重視して課税を行っていくのです。
 
たとえば、対価の授受がないまま不動産や株式等の名義が変更された場合には、原則として贈与があったものと取扱います。

当事者から、『いや単に名義を移しただけであって、真の権利者は元の名義人であり、贈与はしていない』という理屈の下に、贈与税を免れようとする主張がなされる可能性がありましょう。

しかしこのような場合には、課税実務上、名義変更という外観によって贈与を認定するのです。
 
ただし中には、納税者のこの主張が正しい場合もあるでしょう。その場合には、納税者が税務署に対して贈与ではない』旨の説得や立証を行う必要があります。

税務署がこれに納得すれば課税は行われないこととなるわけです。


■みなし贈与財産
 
税法は、贈与税の課税対象を単なる民法の定める贈与に限定していません。

相続税の補完税としての任務を果たすには、民法上の贈与という狭い枠に止まっていられなのです。

したがって民法上の贈与以外の実質的な贈与を、贈与とみなして課税対象としたわけです。

以下の『みなし贈与財産』がそれです。

(1)定額譲受け
 
著しく低い価格の対価で財産を譲り受けた場合には、その財産の時価との差額が贈与されたものとみなして贈与税が課されます。

極めて当然のことといえましょう。

なおこの『著しく低い』かどうかは、社会通念に従い判断されますが、やはり親族間ではシビアにみられるものと思われます。
 
ここで問題となるのは、贈与税計算のベースとなる『時価』とは何かです。

税法においては、いろいろなケースで時価(価格も同義語)という用語が出てきますが、その意味するところは微妙に違うのです。
 
相続・贈与税の場合には、時価は2通りの意味があります。

一つは建前としての評価、すなわち相続税評価額。

もう一つは、本当の時価(自由な経済取引の下で成立する取引価格)です。

相続税評価額は、本当の時価よりやや堅め(低め)に評価されています。
 
さて、ここは大切かつまぎらわしいところですから、事例で説明させていただきます。

父親が時価(公示価格ベース)1,000万円、相続税評価額800万円(公示の8割水準)の更地を、息子に600万円という著しく低い対価で譲渡したというケースの場合です。
 
この場合に贈与とみなされる金額は、1,000万円との差額の400万円か、800万円との差額の200万円か、という話です。

結論は400万円です。

要するに低額譲受けの場合の時価は、本当の時価を基準とするのです。
 
ただし、父親がこの土地を息子に贈与(対価はゼロ)した場合には、原則どおり相続評価額である800万円が課税対象となります。

つまり、一部でも対価を払う(すなわち低額譲受け)と、基準が本当の時価になってしまうのです。
 
ところで、実務上最も問題となるのは、『時価がいくらなのか』という点です。

事実不動産の時価は、たとえて言うならストライクゾーンのように一定の幅があるものなのです。

公示価格にしても、その幅の中のひとつの数値にすぎません。
 
まず、言える事は、路線価評価額(諸調整率適用後)を0.8で割り戻した額が一つの基準となることです。

『公示価格が時価であることと、路線価は公示価格の8割水準にあること』が一つの基準となっています。

しかし、この『路線価÷0.8』では実勢相場にそぐわないと思われる様な場合には、安易に当事者間で価格を決めずに不動産鑑定士や税理士等の専門の方に相談された方がよろしいかと思います。

(2)債務免除
 
債務の免除や、第三者のためにする債務の弁済等により利益を受けた場合は、これらの利益に相当する贈与があったものとみなして、贈与税が課されます。

これも当然の規定といえましょう。
 
また、連帯債務者が自己の負担すべき債務の部分を超えて弁済し、かつそれによって得た他の連帯債務者に対する求償権を放棄した場合には、贈与があったものとみなされます。

保証人が保証債務を履行したうえで、主たる債務者に対する求償権を放棄した場合も同様です。
 
ただし、これらの場合においても、その債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難であるときは、その困難とされる部分に対しては贈与税は課されません。

また、資力を喪失した債務者の扶養義務者がその債務の引受けや弁済を行った場合にも贈与税は課されない(逆に一般の人が債務引受けを行うと課税対象となる)こととされています。


■その他のみなし贈与
 
以下に、各種のみなし贈与とされるものをいくつか列挙します。

ただしこれは常識的に当然と思われるものばかりです。税の根本は『常識』なのです。
 
①信託
 
信託とは、委託者(依頼者)の財産を処分すること等により、一定の目的のために、委託者(信託銀行等)に対して受益者(信託により利益を受ける人)のために財産権の管理または処分を行わせることをいうものとされています。
 
したがって、委託者以外の者が受益者となる信託行為(他益信託)があった場合には、受益者がその信託を受ける権利を、委託者から贈与により取得したものとみなされることになるのです。
 
なお、受益者が学術研究者や学資を受ける学生である等の、一定の公益を目的とする信託(公益信託)から交付される金品については、非課税とされています。

個人が特別障害者を受益者とする信託契約を信託銀行と締結した一定の特別障害者扶養信託に関しても、贈与税は課されません。
 
②負担付贈与
 
ローン付きのアパートの贈与といった負担付贈与があった場合には、贈与財産の時価から負担額(ローン残高等)を差し引いた価格に相当する財産の贈与があったものとみなされます。
 
負担付贈与は、事実上低額譲受けと、その実態は同じです。税務上も同様の取扱いをしているわけです。

③共有持分の放棄
 
共有財産における共有持分の放棄は、その持分が他の共有者に対してその持分に応じて贈与されたものとみなされます。
 
④財産分与
 
離婚による財産分与によって取得した財産は、贈与税は課されません。

しかし、その分与財産の額が婚姻期間中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮しても過大であると認められる場合には、その部分は課税対象となります。


以上、『贈与税』についてお話させていただきました。

 

生命保険の税務について・・・(2016.10.28)

 さて、本日は『生命保険の税務』についてを、お話させていただきます。

1・生命保険の税務

(1)生命保険の仕組み
 
生命保険は大きく分けて、定期保険と生存保険、そしてその両者が組み合わされた混合保険の3種類に区分されます。
 
定期保険とは、一定の期間に保険事故(死亡)が発生した場合に保険金が支払われるだけのものです。

貯蓄性がなく掛け捨て保険ともいわれ、その分保険料は低廉です。
 
生存保険とは、一定期間経過後に生存していた場合に、満期保険金が支払われるものです。一般に養老保険といわれかなり貯蓄性が高く、その分払い込む保険料も高くなっています。
 
一般に普及されている保険は、定期付養老保険といった両者の混合された保険です。

さらにこれに一定の障害の場合に特約を付ける等、これらの組み合わせ方を変えることによって、実にさまざまな保険が販売されているのです。
 
これらの保険は一定期間に限っての保険ですが、10数年前頃に死亡時点まで保険期間とする終身保険が開発されました。現在は定期付終身保険が主流になっています。
 
 
さて、保険に加入した場合に、生命保険会社から受けられるものには、次のようなものがあります。

死亡保険金、満期保険金、各種の特約に基づく給付金(入院給付金等)、保険会社を中途解約した場合の解約返戻金です。

さらには保険契約者は、保険会社から借り入れることもできます(契約者貸付)。

これらに対する税の取り扱いが、ここでの課題となっているわけです。
 
 
保険契約に関しての登場人物は次の通りとなります。

・保険契約者・・・保険会社と契約する人です。保険契約者は保険契約に関する全権を握っています。中途解約にて解約返戻金を手にすることや契約者貸付けを受けることもできます。保険金受取人を変えることもできます。

・被保険者・・・保険をかけられる人です。この人の状況によって支払うべき保険料の額が決定されます。むろん高齢者は高く、若い人であれば安くなります。したがって原則として契約の途中で被保険者を変更することはできません。

・保険金受取人・・・保険金を受け取ることのできる人です。受取人は甲60%、乙40%といった決め方もOK。死亡保険金の受取人はAで満期保険金はB、ということも可能です。受取人を途中で変更しても課税関係は発生しません。(課税は、実際に保険金が支給されてからの話なのです。)

・保険会社・・・保険業法に定められた生命保険会社です。
 
本来、保険契約の当事者間における登場人物はこの4者だけなのですが、税法は独自に隠れた主人公を登場させます。

次に掲げるこの人が出てくるために、課税関係が複雑になるのです。

・保険料負担者・・・保険料を実際に支払っている人です。本来これは契約者のはずです。保険会社も契約者が負担しているものとみなしており、保険証券への記載等保険会社には一切保険料負担者は登場しません。
 
確かに、世の中には妻が契約者である保険料を夫が払っているといった話は少なからずあります。いわば夫のお金を妻名義で預金している、ようなものでしょう。
 
保険においては、契約者以外の者が保険料を払った場合においても、その時点では課税関係は発生させません。

保険金の支払いがある等、実際にお金が動いたときに、初めて実際の負担者に応じた課税が行われていくのです。

1・生命保険の税務関係
 
生命保険に関して保険事故の発生等何らかの動きがあると、その態様に応じて相続税や所得税(一時所得)、贈与税の課税関係が発生します。これらを各税目ごとにみていくこととします。

(1)相続税
 
税法が注目する保険料負担者(通常は保険契約者、以下保険契約者と表現します)が死亡した場合には、その相続人等に相続税が課されます。
 
典型的な場合は、保険契約者(すなわち保険料負担者)が被保険者になっている場合において、その人が死亡するケースです。(夫が自分を被保険者、妻や子を受取人として保険を契約した後、夫が死亡した場合)。

この場合、その死亡保険金がみなし相続財産として相続税が課されるパターンです(法定相続人1人500万円の非課税枠あり)。
 
一方、被保険者ではない保険契約者が死亡した(たとえば、孫を被保険者として祖父が保険を契約していたところ、その祖父が死亡した)場合には、死亡保険金は出ません。

しかし契約者としての地位(預金にたとえると預金者の立場)は誰かが継承します。すなわち、その承継者が生命保険契約の権利を相続したことになります。これに対して相続税が課されるわけです。
 
生命保険契約の権利とは、分かりやすく言えば契約を解約した場合の解約返戻金を受け取るこののできる権利です。

契約者はいつでも保険を解約することができるのです。

相続税の評価額は『解約返戻金』で評価することとなります。

(2)所得税
 
保険事故が発生した場合において、死亡保険金の受取人が保険契約者(保険料負担者)であった場合には、その受取人には所得税(一時所得)が課されます。

父を被保険者として、息子が自らを保険金受取人として保険料を払っていた場合に、父が死亡したというケースです。
 
この場合の息子は、自らの負担において自らが収入を得たわけですから、当然所得税の対象となるわけです。(実際の所得額は受取保険金から払込み保険料を控除した額をベースに計算する)。

なお仮にこのケースで、息子が保険料のうち6割を、被保険者である父が4割を負担していた場合には、その受取保険金のうち6割が所得税、4割が相続税の課税対象となります。

要するに保険料の負担割合によって課税されるわけです。

(3)贈与税
 
先の所得税は、負担者=受取人の場合でしたが、負担者≠受取人であればどうなるでしょうか。

この場合は、保険金(満期保険金を含む)を取得した保険金受取人は、保険料負担者から贈与により取得したこととされます。
 
受取人が何の負担もしないで保険金を取得しているわけですから、当然といえましょう。

しかし税率の高い贈与税をかけられたのではたまりません。

保険に入る場合には、この辺をよく考えて加入すべきでしょう。
 
なお、保険契約者を変更すると、従前の契約者から新契約者にこの生命保険契約の権利が贈与されたこととなります。

預金の名義をかえたことと同じことですから当然といえましょう。
 
例をあげますと、Aを被保険者、Bを保険金受取人、Cを保険契約者とした保険契約において、実際の保険料はAが5割、Bが3割、Cが2割を払っていたところ、保険事故が発生し、受取人であるBが1,000万円の死亡保険金を受け取りました。この課税関係はどうなるか、という話です。
 
答えは、500万円が相続税、300万円が所得税、200万円が贈与税の課税対象となります。


以上、『生命保険の税務』について、お話させていただきました。

 親族間の借地関係について(2016・10・29)

今回は『親族間の借地関係』についてお話させていただきます。

1・使用貸借と賃貸借
 
親の所有する土地に、子どもがマイホームを建てるということはよくあります。

建築費は子どもが出していますから、建物は当然子ども名義です。
 
要するに、親が子どもに土地を無償で貸しているわけです。

このように資産をタダで貸す事を、民法では『使用貸借』といいます。

一方、使用料(賃料)を取って貸すことは『賃貸借』といい、両者ははっきり区分されています。実はこの区分は、税務上において極めて大切なのです。
 
更地価格1億円(相続税評価も同額とします)の親の所有地(借地権割合は60%)に、子どもが家を建てたとしましょう。

むろん地代はゼロです。

この場合かなり以前(昭和30年代)は、税務上において恐ろしい取扱いがなされていました。

『子ども名義の建物が親の土地上に建った以上、そこには借地権が発生した。

借地権の発生・譲渡等の際には、通常借地権の対価(権利金、この場合6000万円)が授受される。

この場合はそれがない。

つまり子どもは6000万円の借地権をタダで(贈与によって)取得したことになり、この6000万円に対する贈与税の課税を行う』というわけなのです。
 
今思えばかなり無理な理屈と言えましょう。

しかし国税当局もやみくもに税金を取ろうとしたわけではありません。(事実、これは建前で、実際にはこの課税はあまり実施されていなかったのではないでしょうか)。

これには理由があるのです。


税務上で『建物所有を目的とする土地の使用貸借』が認められる事となった経緯としましては、従来は『借地権なくして建物なし』というように、建物と借地権の両者をいわば糊付けした取扱いにしていました。

むろん『糊付け』された土地に関しては相続発生時には底地評価となります。
 
しかし、ある裁判で『糊付け論』が否定されました。

理由は『借地権とは,建物所有を目的とする土地の賃借権等である。

賃料を払っていない使用貸借における土地使用では、借地権が発生するはずがない』というものです。
 
この判決以降、税務上で『建物所有を目的とする土地の使用貸借』が認められました。

その後は、親の土地に子供が家を建てることは、何の問題もなくなったのです。

もっとも、将来における相続発生時には、当然この土地の評価は更地評価(貸家建付地の減額も不可)となります。
 
使用貸借に供されている土地は事業用(賃貸用)でもなければ、(親の)居住用でもないものとされます。

理屈の上では確かにその取りなのですが、これにより事業用・居住用不動産に関する一切の特例(譲渡所得や相続税)から排除されてしまうのです。

さらに細かい点(相続税評価における評価単位等)に至るまで、この考え方が多岐にわたって浸透しています。
 
したがって、税務上の判断においては、土地の利用関係が賃貸借なのか使用貸借なのかを明らかにすることが先決となります。

同時に親族間における賃借では『賃料(家賃や地代)を払うべきかどうか』についても、しっかりした判断が求められます。

単に支払能力の有無等ではなく、税務上の取扱いの違いをしっかり見据える必要があるのです。
 
一つの例を示しましょう。
 
親の土地に子供が家を建てる場合です。

通常は土地は使用貸借となります。

しかし親の収入が少ないような場合には、生活費の援助を兼ねた形で、相応の地代を払おうとするケースもあるでしょう。
 
しかし、この場合は決して地代を払ってはなりません。

地代を払えば、土地の賃貸借となります。

一気に借地権の贈与とみなされてしまうのです。

いつ課税されてもおかしくない状況になってしまうわけです。

このような場合には、地代としてではなく、親の扶養としてお金を渡さなければなりません(なお、その土地の固定資産税額程度のものであれば、地代とはみなされません)。

1.親族間の借地関係

(1)親の借地上への子の建築
 
親Aが、Cを地主とする借地権を有しています。

借地上のA名義の建物が古くなり建て替えることにしました。

ただし、老齢の親Aにはその資力がありません。

そこでAの子Bが資金を出します。

むろん建物はB名義にします。地主Cからは、これらにつきすべて了解を得ています。
 
こうした例は、少なくないものと思います。

この場合の権利関係は、子Bが親Aから借地権の無償による転貸を受けたことになります。

借地権者はあくまで親Aのままなのです。

当事者は地主を含め皆そう認識しています。
 
ところが、これにはやっかいな問題が発生します。

外部(税務当局)からは、誰が借地権者なのかが分からなくなってしまうのです。

少なくとも見た目には、借地権者は子Bに移ったように見えてしまいます。
 
この時点で一律に贈与税を課するのも非現実的です。

そこで税務当局は、『借地権の使用貸借に関する確認書』を税務署に提出した場合に限って、贈与税の課税をしないこととしまいました。

要するに、この文書で『借地権者は従来通り親Aですよ。だから親Aの相続の際に、この借地権者は子Bに移っているなどと主張しませんよ』と言われているわけです。
 
これは妥当な取扱いです。こうしたケースでは、この確認書は提出しておくことをご記憶ください。

(2)子による底地の買取り
 
借地権者が誰であるか分かりづらくなるケースが、もうひとつあります。
 
地主Cが、借地権者である親Aに底地の買取りの依頼に来ました。

いい話なので借地権者Aはその気になりましたが、購入資金がありません。

そこで、Aの子Bが代わりに底地を買いました。つまり地主がCから子Bに変わったわけです。
 
さて、通常このような場合、子Bは親Aから地代は取りません。

土地は親への使用貸借になります。

つまり理論上、この時点で借地権が消滅してしまうわけです。

すると、借地権者は親Aから子Bに贈与されたということになります。

『借地権相当額に贈与税』といったことになりかねないわけです。
 
これも非現実的な話です。

そこで、『借地権者の地位に変更がない旨の申出書』を出した場合には、贈与税は課税しない、としたわけです。

要するに『使用貸借ですけれど、借地権者は従前どおり親Aですよ』という内容です。
 
以上、『親族間の借地関係』について、お話させていただきました。      

 相続対策①について・・・(2016.11.2)

本日は、『相続対策①』について、お話させていただきます。

1・はじめに
 
昭和60年頃以降、平成4~5年までにかけて、実にさまざまかつ大量の相続税対策が行われました。

大きな原因のひとつに地価の高騰と路線価水準のアップを基因とする、相続税の実質的大増税があったように思われます。
 
相続税対策の大流行は、国税当局による各種の強力な規制を招来させました。

負担付き贈与の事実上の禁止、養子縁組の制限、自社株評価の改正。

きわめつけは路線価水準の大幅アップです。

これらの規制により、従来はなばなしく行われていた対策は、ほとんど駄目になってしまったのです。
 
しかし、相続税対策を必要とする人たちは少なくありません。

さらには、相続税はかからないものの、遺産の分割を含め各種の相続関連手続きを、どのように行うのか、といった現実的問題もあります。
 
ところで、従来の相続税対策には、少なからぬ問題点があったように思います。

相続税対策は、ただ税金を減らせばいいというものではありません。

お年寄りやその相続人たちにとって、どのような相続(税)対策がいいのか。

こうした観点からのものが何より求められているのです。


2・対策の三つの順位
 
相続税には、重要性からみた優先順位があります。

けっしてこの順位を誤ってはなりません。

最優先すべきは何といっても円満な相続。

次に納税資金の確保。

そして最後にやっと節税対策が出てきます。

節税対策を他に優先して行うと、大きな不幸に陥りかねません。

以下、順次説明いたします。


(1)円満な相続
 
相続税対策の最優先事項は、当人の安定した生活と、相続人の円満な遺産分割です。

とりわけ後者は重要かつ現実的には油断のできない難題でもあります。
 
それにはまず、税引後の正味財産を、各相続人がそれぞれ納得できるような形でいかに配分するのか。

これを最初の段階で考えておく必要があります。
 
ここで重要なのは、当人の相続(一次相続)に続き、やがて発生する配偶者の相続(第二次相続)後における、次世代間の最終的な配分状況を想定したうえでこれを考えねばならない点です。

一次相続による分割は一時的なものにすぎないといえるからです。
 
何よりも、不動産を次世代である兄弟等が共有する形の遺産分割は避けねばなりません。

共有持分を取得した相続人は、他の相続人の合意なしに換金ができません。

兄弟間の共有は、後年の紛争の火種となるからです。
 
ただし換金予定のものの共有は問題ありません。

また被相続人の配偶者と子の共有も構いません。

その配偶者の第二次相続発生の際に、その子の単独所有となる遺産分割をすればよいのです。
 
いずれにしても、遺産分割のトラブルが生じたら、もはや一家の絆の修復は不可能となりかねまん。
 
この問題につきましては、次回、述べさせていただきます。


(2)納税資金の確保
 
今日、一定以上の資産家の相続税対策のメインテーマーは、この問題に移っています。

すなわち課せられた相続税をどうやって払うかなのです。
 
遺産10億円の相続で、税金が3億円だとしましょう。

この場合おそらく預貯金等の流動資産(死亡保険金を含む)は多くても1億円でしょう。

残りは、自宅アパート等で、通常右から左に売却できる更地等はほとんどないのです。

大量の底地や自社株があったりすると、一層の苦戦が予想されます。
 
以前の典型的な失敗例を紹介しましょう。

かなり広い超高級住宅地(評価額15億円見当)の古い自宅に住む老人と子供の相続税対策です。他に大きな資産はありません。

相談を受け金融マンの提案により、全額借入れにより5億円の高級賃貸マンションを敷地の中央にドカンと建てたのです。
 
これによって、6億円の予想相続税額を3億円に半減させたとして、その金融マンは胸を張ったそうです。

しかしその人に質問したいのです。

『残りの3億円はどうやって払うのですか?』と。(このような場合には、事前または事後的に敷地の一部を売却するより他ありません。一部売却が地形の面で無理であれば、全部を売って小さめの土地に買い替えるのです。)
 
遺産が何億円であろうが何十億円であろうが、その多くが預金であれば何の問題もないのです。

現実はおいそれと換金できそうにない資産が大半なのです。

大資産家の最も頭の痛いのがこの点なのです。


(3)節税対策
 
しんがりに、やっと相続税を減らすためのいわゆる節税対策が登場します。

確かに税額は少ない方がいいに決まっています。

やりようによってはかなり減らせる可能性があるのも事実です。

しかし上記(2)の失敗事例をみるまでもなく、節税対策は、円満な相続や納税資金の確保と矛盾してはならないのです。
 
さらに往々にして節税対策にはマイナス面も付随します。

各種のリスク(対策に用いた事業のリスク、地価下落のリスク、借入金の変動リスク等)やいろいろな費用負担(報酬や流通税)等です。
 
ご承知のようにバブル時代の対策は、右肩上がり経済を前提にこれらのリスクを甘くみたために、惨惨たる結果に陥った例が少なくありません。
 
しかし、必要以上に恐れることもありません。

まずはこれらは充分に考慮に入れて総合的に対策を検討することです。

そして各種の問題がクリアされたのであれば、そのときこそ積極果敢に対策を推進すべきなのです。

以上、『相続対策①』についてお話させていただきました。


 相続対策②について・・・(2016.11.4)

本日は、『相続対策②』について、お話させていただきます。

1・遺産分割

(1)遺産分割の重要性
 
前回のご説明は、相続税が課される人のみを対象とした話でした。

しかし相続税の課せられる人は死亡した人の全体からみれば20人に1人以下と極めて少数派なのです。

ただし、円満な相続(遺産分割)は、相続税の課されない大多数の人にも共通した極めて重要な課題です。
 
一つの例としまして、相応の資産価値を有する老夫婦の敷地に長男夫婦が両親の面倒を見る形ですむ一方、弟や妹は外に出ているというケースにおいて、主な資産がこの敷地だけという場合を考えてみましょう。

両親の死後には、おそらく考えられるのは次のようなケースとなるでしょう。

しかし、果たしてこれでよいのか?という問題です。
 
①長男が土地を相続。他の二人の相続財産はゼロ。
 
②兄弟妹の三人で、土地を共有で相続。長男夫婦がそのまま住み続ける。
 
③この土地を売却し、代金を三人で配分。長男はその資金等で小さい家(マンション)に買い換える。
 
どれをとっても、あまり芳しくないように思います。(この中では①がベター。とにかく②はお勧めできません)。

何とか事前(第一次相続開始の10年以上前の段階)に手を打っておきたいものです。

もしうまい手がないのであれば、皆で事前にどの方針でいくか、分配するのであればその比率をどうするのか、等について何らかの合意がほしいところです。

それさえあれば、各相続人やその家族は、前もって精神的な心づもりや金銭的準備ができるからです。

(2)代償分割の利用
 
上記(1)の例の解決のヒントとなるのが代償分割です。

代償分割とは、『長男が土地を単独で相続する代わり(代償として)、長男の固有資産である金銭を弟と妹に各1000万円ずつ支払う』といったものです。(これは土地の売買ではありません。代償分割はあくまで遺産分割のひとつとして民法が定めている手法ですから、妙な税は課されません)。
 
問題は、長男側にいくらの資金負担能力があるか、です。

兄弟間に信頼関係が確保されていれば、代償金は長期の年賦払いも可能です。

このように、長男の支払能力に応じた合理的な代償金を収受した以上、両親の面倒をみた長男が土地を一人占めしても、弟と妹は納得するのではないかと考えられるのです。
 
代償分割は、このような解決策に止まらず、相続手続きの便法(例えば、多くの金融機関に預けられた多種多様な預金はすべて配偶者がまとめて相続し、その代償として、他の相続人に代償金を払うことにする、等)や譲渡所得税の将来的な節税策としての利用も可能です。
 
遺産分割の問題は、代償分割の応用方法のいかんによってかなり解決できる余地があるように思われるのです。

以上、『相続税対策②についてお話させていただきました。
      

 相続対策③について・・・(2016.11.5)

本日は、『相続対策③』についてを、お話させていただきます。

1・遺言
 
遺産分割がもめそうであると思われる様な時や、次のような特殊事情が有るときは、遺言は必須のものといえるかと思います。

(1)個人事業を承継させたい場合
 
個人事業を特定の者に継がせる場合には、たとえそれが遺産の大半であっても、事業関連資産はすべて承継者に相続させなければなりません。

そのような場合には、遺言で明白にそれを指示しておくべきでしょう。


(2)夫婦間に子がいないとき
 
子がいない場合に夫が死亡した場合には、妻が全財産を相続できるわけではありません。

多くの場合、妻は日頃疎遠にしていた夫の兄弟たちと、気苦労の多い遺産分割の折衝をしなければなりません。
 
これを防ぐには『配偶者に全財産を相続させる』との遺言が一番です。

兄弟達には遺留分がないため、この遺言で一件落着となるのです。


(3)内縁関係にある者
 
内縁とは、届出をしていない婚姻のことです。

要するに事実上の夫婦なのですが、主義主張その他の特殊事情から婚姻届を出していないのです。
 
ただしそうであるにしても、民法上は夫婦とは認められないためお互いに相続権はないわけです。

当然万一のことを考え、早いうちから遺言を作成しておくべきでしょう。


(4)亡父の親を扶けている子のない嫁
 
嫁入り先で夫の親と同居していたところ、子ができないうちに夫が死亡してしまったが、その嫁はそのまま高齢の夫の親を扶けつつ同居している、という話です。

この場合その義親に相続が発生しても、長男の嫁は相続人ではありません。

嫁に子供がいればその子が亡父の代襲相続人として多くを相続できましょうが、このままでは遺産に全く無縁な存在として放り出されかねません。
 
このような場合は是非とも遺言により、嫁に相応の財産を遺贈させるべきです。さらにいえば、このようなときこそ、その親と嫁が養子縁組をするのです。これで嫁の立場は安泰となるわけです。


(5)法定相続人がいない場合
 
ご承知のとおり天涯孤独の人が死亡すると、遺産は最終的に国庫に帰属することとなります。

であるならば、生前世話になった人や各種の施設へ遺贈した方が、せっかくの財産を有効に生かせるように思います。
 
それには遺言あるのみです。

まして老後の今日世話になっている人があれば、その人に遺贈する旨の遺言を作成し、これを見せたうえでその人にこの保管を託しておけば、両者の関係は一層円満なものとなりましょう。


(6)推定相続人の中に行方不明者がいる場合
 
相続人の中に一人でも行方不明者がいる場合には、すんなり遺産分割協議はできません。

利害関係者が家庭裁判所に不在者財産管理を申請する等、面倒な手続きが必要となります。

このような場合にも遺言は必須となります。


(7)その他
 
この他、離婚、再婚を繰り返す等により親族関係が複雑である場合、相応の資産を有する人が比較的高齢になってから再婚する場合、さらには子を認知しようとする場合等、遺言は大きな力を発揮します。
 
一般に日本人は遺言を苦手とするようですが、このように必要と思われる遺言は積極的に行うべきと考えます。


以上、相続対策③について、お話させていただきました。

     

 不動産対策について(2016.11.7)

さて、本日は『不動産対策』について、お話させていただきます。

相続財産に占める不動産の割合はかなり高いものがあります。

相続に備えての対策は、もとより、ご所有不動産をどのように活用していくかの事業的な側面も踏まえての対策を考える事が重要と考えます。

なお、相続税対策による節税効果を考える場合には、なうべく累進税率のグラフをイメージするようにして下さい。

対策の効果が一層実感できるかと思います。

1.土地の整理

(1)基本方針の策定

基本方針の策定には、まず、相続開始に至るまでの期間がどのくらいあるかを考慮する必要があります。

相続発生直前なのか?1~2年ないし2~3年の期間はありそうなのか?5~10年なのか、はたまた20~30年先の話なのか・・・

これらに応じて、具体策は大きく、異なります。

具体的な基本方針は、ほぼ次のような要領で立案することとなります。

①すべての所有資産の確認と状況把握(現状分析)

②所有資産の概略の相続税評価と予想相続税額の算出(概算相続税シミュレーション)

③所有金融資産と予想税額との比較による資金不足額算出

④所有不動産の客観的換金性および主観的な手離すことの可否(例えば、換金性はあっても自宅は売りたくない)の調査・確認

⑤土地といったメインの資産を中心に、概略の遺産分割構想の立案(円満な分割の障害の有無の確認)

⑥所有不動産やゴルフの会員権等の時価(換金可能額)の調査(取得費加算特例を念頭に入れての譲渡所得税の資産も)

⑦物納の可否の検討(物納の要件に該当しえるか)

上記に掲げた項目の調査・分析を踏まえたうえで基本方針を策定し、その人にとって必要かつ有効と判断された対策に限って実行するようにします。


以降、各種の対策方法をご紹介させていただきます。


2.底地の整理

底地の換金価格は、相続税評価額や世評で言われている水準に比べて著しく劣ります。

これらは、借地人との間で底地と借地権との一体化(一方の買取り、共同売却等)の合意が得られた場合の話にすぎません。

底地所有者(地主)に相続が発生したからといって、突然、底地の購入を借地人に頼んでも、簡単には購入して頂けません。

仮に、いくらリ―ズナブルな価格でも、ない袖はふれないのが現状です。

売買契約の条件の交渉を考えてみても、借地権の付着した土地(底地)を多数所有している地主さんは、長期的(最低10年以上、通常20~30年間)に、底地を整理(借地権との一体化による完全所有権化。これら底地割合ないしそれ以上をベースとした価格で処理可能)していく必要があるのです。


3.小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例対策

やはり、相続開始が近づいたら(2~3年前)、小規模宅地(居住用)の特例がフルに(8割弱、330㎡)受けられるかどうかは、一応チェックしておきたいところです。

チェックポイントは、当人が超長期の入院や老人ホーム等へ移っているため、自宅に住んでいないケースです。

この場合は、自宅に住む親族と生計を一にしていればいいのです。

この点に疑念の余地のないようにしっかりと仕送りしておくべきでしょう(可能であれば、所得税の申告に関して、扶養親族にしておきたいところです。)

この他、親が自宅で1人住まいの場合です。

適用要件の充分検討等により、なんとか8割軽減適用への工夫が求められます。


4.有効利用等

(1)基本方針

土地上にアパート等の賃貸住宅を建てれば、評価額はかなり下がります。(貸家建付地評価になるため)

以前はこの手法(借金してアパートを建てる、またはアパート自体を購入する)が、金融機関やハウスメーカー等のビジネスチャンスになったこともあって、大はやりしました。

そこで国税当局は、昭和63年12月に強烈な規制(相続開始3年前に取得した土地建等はその取得費で評価する【いわゆる3年しばり】という規制)を行いましたが、この規制に内在する矛盾が拡大してきた平成7年に、廃止となりました。

したがって、現在では、従前どおり自由にこうした手法がとれる事となりました。

しかしその前に、一般の人が気付かない重要な事項を指摘させていただきます。

ここで、一つ、お考えいただきいたのが、『地主さんが、時価6,000万円の更地上に相続税対策を兼ねて4,000万円でアパートを建てました。

このアパートを1年後に相続税納付のための換金することになりました。さてこの土地建物はいくらで売れるでしょうか(担保評価の問題と考えてもいいでしょう)。』

正解はせいぜい6,000~7,000万円がやっと、といったところであろうと思われます。(もちろんケースバイケースですが・・・)。』

理由を簡単に説明しますと、土地6,000万円は、更地だから6,000万円の値がついたのです。

この値を付けた人は、『更地にしてくれれば6,000万円で買う』と言うだけの話です。

アパートという収益物件目当ての投資家は、このアパートの年間収入を売買価格で除した利回り計算をします。

要するに収益性です。地価が下落基調の今日の流通利回りは8~10%(中古の場合)と極めて高いのです。

利回り計算からみても、おそらく6,000~7,000万円がやっと、となるに相違ないと想像します。

ここで申し上げたいのは、アパートを建てたらその土地建物は換金できなくなる(換金はできるが大損する)ということなのです。

むろん、建築後30年を経過して、その建築費用4,000万円を家賃で回収した後であれば、換金(6.000万円)は何の問題もありません。

新築して、5年や10年(さらには15年)程度で安易に換金を考えてはならないのです。

納税資金や遺産分割の資金等に充分な当てがない限り、わざわざ換金ピッタリの更地上にアパートを建てる事は避けざるを得ないと考えます。

(2)有効利用策
アパート建築といった土地有効利用による節税策にとって重要な点は事業採算です。

賃貸アパートも1,000万円以上(建築費等)を投じたれっきとした事業なのです。

そもそも今日全国的に賃貸住宅は供給過剰状況にあります。賃貸事業は空室が一番怖いのです。

それには、そこがアパート敵地か否か、どのような建物(間取り仕様等)が良いのか等の入念な調査が必要となります。

空室以外にも入居者とのトラブル、貸家の修繕等貸家の管理に関しての種々の問題が生じる可能性があります。

これらをどう処理するかも考えておかなければなりません。

やはり節税効果の計算以前に、事業としての収益性の見当が先なのです。

この順番を間違えてはいけません。

要するに安易に建ててはならないのです。

逆に、これらがクリアされたのであれば、節税効果が大きいのは確かなのですから、積極的に対応すべきと考えます。


5.貸家の名義の検討

相続開始までかなりの期間(15~20年)が見込まれる場合で高収益が見込まれるのであれば、父の土地上に息子名義のアパートを建てる(借地人は息子)のも手です。

同じ趣旨から、父親所有の既存アパートの建物だけを息子に売却する方が手っとり早いようにも思います。

このような場合の息子の取得資金を、相続時精算課税制度を使って一度に贈与するのは、ひとつの手法と言えます。

その上で、土地は子どもにタダで貸し(使用貸借)、家賃収入は子どもがその金額を受け取るのです。

要するに父親の相続財産の増加を防ぎ、逆に子どもに納税資金を蓄積させるのが狙いです(この場合、親子の所得税の検討が必要。その意味から専業主婦の娘が建てるのがベタ-)。

ただし使用貸借のある敷地には、原則として貸家建付地の減額規定は適用されません。

この対策としては、父親がかなり高齢者になった時点で、逆に子どもが父にこの建物を売却(なるべく高値で)するという手法が考えられます。

土地建物ともに父の所有となり、貸家建付地等の規定が適用されるわけです。

以上、『不動産対策』についてお話させていただきました。




 相続人と相続財産について(2016.11.8)

本日からは、遺産分割に関わる『民法』についてお話させていただきます。

◇遺産分割のための確認事項

【相続人と相続財産の把握】について

1.相続人と相続財産の把握
遺産分割のお話を各相続人間で進めるにあたって『相続人(分けるべき財産を取得する権利者)』と『相続財産(分けるべき対象)』の範囲を確定させることが、当然に、必要となります。

すなわち、相続人の範囲については、遺産分割協議書に無資格者が含まれていたり、有資格者の一部を除外して分割協議がなされた場合は、分割は無効となってしまいますので注意が必要です。

また、相続財産の範囲についての留意点として次の様な事が考えられます。

・遺産分割に相続財産以外のものが含まれていれば錯誤により分割協議全体の無効があり得ます。

・相続財産の一部を除外して遺産分割をした場合は除外した相続財産について再度、分割が問題となります。

・相続人が遺産について自己の所有権を主張し調停や裁判の場で個別財産の帰属が重要な争点となることがあります。

・相続財産について銀行借入金等の消極財産が不動産や現預金等の積極財産を超過することが判明した場合は、放棄や限定
承認を検討する必要が生じてきます。


2.相続人の把握の方法

相続人を把握するためには、戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍、住民票を取得し相続人の出生から相続発生までの戸籍の記録を確認して把握することとなります。

基本的には、戸籍謄本等によって身分関係等や関係者生年月日や死亡年月日を確認しながら相続人関係図を作成していきます。

さらに、ケースによっては相続資格のある人の生存の確認や、遺産分割協議の申し入れ等のため、現在の住所等の連絡先の調査が必要となる事もあります。


3.相続財産の確認

①預貯金等

金融機関から被相続人の相続発生時の残高証明を取り寄せて確認します。

債権や証券についても同様の方法によります。

相続発生時までにまだ受け取っていない利息等(利息受取り前に相続が発生した等)が有る場合は相続財産の対象となります(普通預金の少額のものは対象外となる事があります)ので相続発生時の利息の証明も必要となります。

②不動産等

不動産所在の市町村の固定資産税課から『土地や建物の名寄帳』を取り寄せて確認することが一般的です。

未登記の建物も記載されていますので不動産の把握には、大変、便利な資料となります。

問題は、不動産をいくつかの市町村に分散して所有している時など、不動産所在の市町村の全てを、相続人が把握しきれているかが心配な時があります。

所有されている不動産はすべて、固定資産税が課されてきますので固定資産税の支払い先を、従前から把握しておくことを、お奨めいたします。

③その他資産

自動車登録、電話登録、その他準公的な証明を利用し確認することも必要となってきます。

④債務等

未払いの税金(所得税や固定資産等)があれば債務として相続財産の控除対象となります。

住宅や事業資金の借り入れ残高等の確認は金融機関の証明書で確認いたします。

他、個人間における貸付や借入等の確認も必要となりますので個人間の債権債務を生前に確認しておく事も重要となります。


以上、『相続人と相続財産』についてお話させていただきました。
    

遺産分割の意義と手続きについて・・・(2016.11.10) 

本日は、『遺産分割の意義と手続』についてを、お話させていただきます。

1.遺産分割とは、相続開始後、共同相続人の共同所有に属している相続財産を、各共同相続人に分配、分属させる手続きです。

相続開始と同時に、被相続人の財産(相続財産=遺産)は相続人に移転します。相続人が一人の場合は、遺産は相続人の単独所有になり、分割の問題は生じませんが、相続人が数人ある場合は、遺産の共同所有関係が生じ、いずれ各共同相続人に分属させる手続きが必要となります。この手続きが遺産分割手続きとなります。

2.遺産分割の手続き

遺産分割の手続(手段)としましては、①遺言による指定分割、②協議による分割、③調停による分割、④審判による分割の分割手続きの方法があります。

①遺言による分割とは・・・

被相続人は、遺言で、分割の方法を定め、もしくはこれを定めることを第三者に委託することができます。

『分割の方法を定める』とは、例えば、『妻には自宅の建物と土地を、長男にはアパートを、長女には駐車場を相続させる』というように、分割の具体的な方法(各相続人の取得すべき遺産)を具体的に定めることです。

このような遺言が残されたときは、遺言執行者の行為により分割が実行されます。『分割の方法を定める』遺言は、同時に相続分を定める遺言と解される場合が多いのですが、遺留分を害する指定の効力については、無効とする説があるが、減殺請求の対象になるとするのが多数の説となります。

被相続人の指定又は第三者の指定が無効であるとき、あるいは第三者が相当の期間に指定をしない場合は、②以下の手続きによることとなります。

②協議による分割とは・・・・

共同相続人全員の合意により遺産を分割する手続きです。

共同相続人は、被相続人が遺言で分割方法を指定した場合や分割を禁じた場合を除く他、いつでもその協議で遺産の分割をすることができます。協議の成立には、共同相続人全員の意思の合致が必要となります。(但し、分割協議後、被認知者が現れた場合については注意が必要です。)

全員の意思の合致がある限り、分割の内容は共同相続人の自由に任されており、特定の相続人の取得分を零(何も取得しない)とするような分割協議も有効となります。

また、分割の態様についても、現物分割、換価分割、代償分割等の自由な方法が採れます。

③調停による分割・・・

分割協議がまとまらないときや協議ができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に分割を請求できます。

分割の申し立ては、実務上調停手続の申立てによってなされることが多いですが、いきなり遺産分割の審判の申立てもできます。

しかし、家庭裁判所は遺産分割の審判申立てがあっても、まず調停手続に付し、話し合いによる解決を一度は試みるのが一般的です。

調停分割はその本質は協議分割ですが、調停委員又は家事審判官(=裁判官)が話し合いの斡旋をしてくれること、及び合

意が成立した場合、作成される調停調書の記載には確定した審判と同一の効力があることの2点で分割協議と異なります。

④審判分割・・・

遺産分割調停が不成立となった場合、審判手続きに移行されます。

審判分割においては、家庭裁判所の審判官が、民法906条の分割基準に従って、各相続人の相続分に反しないように分割を実行します。また、特別の事情がある場合には、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、分割を禁止する事ができます。

金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他給付を命ずる審判は、相手が任意に履行しない場合は、これに基づいて強制執行ができます。


以上、『遺産分割の意義と手続』についてを、お話させていただきました。
     

 遺産分割協議書の具体的手続他について・・・(2016.11.11)

さて、本日は、『遺産分割協議の具体的手続他』についてお話させていただきます。

1.遺産分割協議の具体的手続き

遺産分割協議は、協同相続人全員の意思の合致により遺産を分割する手続きです。

①遺産分割に関して共同相続人で合意が成立した場合には、単に口頭の合意で留めておくことも可能ですが、協議の内容を証明するためにも、協議の蒸し返しを防ぐためにも、遺産分割協議書を作成しておくのが普通です。

遺産分割協議書には共同相続人全員の署名・押印が必要となります。(署名は記名をもって代えうりますが、できるだけ自署によることが望ましいです。)


②相続人全員が署名・押印した遺産分割協議書は,契約書と同様に、遺産分割の協議が成立したことの証明になります。

遺産の中に不動産がある場合は、遺産分割協議書は『相続を証する書面』となりますので、遺産分割協議書によって相続による取得登記ができます。(そのためには共同相続人全員が遺産分割協議書に実印で押印し、印鑑証明をそれぞれ添付しておかなければなりません。)

登記以外にも、被相続人名義の預金の名義書換えや相続税の申告の関係などにも遺産分割協議書は必要とされます。


③遺産分割協議書作成時の注意点

◇誰がどの遺産を取得するのかを明記しておくことが必要です。

取得すべき遺産については、それを特定するに足る事項をできるだけ詳細に記載すべきです。ただし、特定の相続人が、全遺産を取得するような場合は、『すべての遺産』という文言でたり、個々の遺産を特定、列挙する必要はありません。

◇現在判明していない相続財産が今後発見された場合、誰にどう分配するかについても決めておきます。

◇住所の記載は、住民票や印鑑証明書に記載されている通りに記載します。

◇捺印は実印でします。これは印鑑証明書と一体となって、合意が本人の意思に基づくものであることの証明になると同時に、登記の際の『相続を証する書面』として使用するために必要なこととなります。

◇銀行、証券会社などによっては、自社専用の決められた様式の用紙に相続人全員の実印による押印を要求し、一般の遺産分割協議書では預金名義を特定の相続人名義に書き換えることを認めないところがありますから、あらかじめ銀行等に確認し、必要あれば、遺産分割協議書に対する捺印と同時に、専用書類への押印を済ませらる事を、お奨めします。

◇作成する通数は、各相続人が1通ずつ所持できるように、相続人の人数分と他、不動産の相続登記用の通数並びに、相続税の申告が必要な時は申告書添付用の通数、他、銀行や証券会社で名義書き換えの書類に添付する必要があるときはその通数も含めての作成が必要となりますので事前に必要通数の確認をされておいた方が安心です。

◇遺産分割協議書が1枚の用紙で足りずに複数になった場合、各用紙の間に全相続人の契印を忘れずに捺印します。

◇公正証書にしておけば、説明力が高くなる等、後に争いにになる可能性が大幅に減ずることが出来ますので、公正証書の利用も考えられては如何でしょうか?


以上、『遺産分割協議の具体的手続他』について、お話させていただきまいた。

 遺産分割協議の態様について(2016.11.11)

本日は、『遺産分割協議の態様』についてを、お話させていただきます。

■遺産を共同相続人にどのように分配するか、という分割の態様については次のものが考えられます。

1.全部分割と一部分割

全ての遺産をまとめて分割するのが全部分割です。

遺産中の一部の財産について分割し、残余の財産を未分割の状態のままに置くのが一部分割です。

一部分割は、相続人の中に生活困窮者がいて当面の生活費を工面する必要がある場合や相続債務があり分割協議に時間をかけていると、利息や損害金が莫大になり、早急に相続財産の一部を処分して支払ってしまうことが全相続人の利益となる場合、などには有用な方法です。

ただし、一部分割は、次のような問題があります。

①残余の遺産の分割の問題が残り、遺産分割問題の根本的解決にはなりません。すなわち、解決すべき問題を先送りにすることとなります。

②残余財産の分割の際に、先に行われた一部分割をどのように反映させるべきかという新たな問題を生ずることとなります。

以上の事等から、協議分割においても、安易に一部分割をするのは控えることが望ましいと思われます。

2.現物分割、換価分割、代償分割

①現物分割とは、例えば、この建物は妻に、この宅地は長男に、このアパートは二男に、それぞれ取得させるというように、相続財産である遺産の中の個々の財産を、その形態を変えることなくそのまま各共同相続人に分割すること、又は一筆の土地をいくつかに分筆して各相続人に取得させるように、通常の共有分割のように個々の財産を分割することをいいます。

民法上では分割の方法(態様)については特に規定はしていませんが、現物分割が同条の趣旨に適合した方法であり、遺産分割の原則的方法であると考えられています。

現物分割による時は、どうしても各相続人の相続分と異なる分割結果が生ずることになりやすいですが、協議分割では、協議が成立している限りこの点は問題になりません。審判分割でも、相続分との差違が多少の誤差程度ならば許されるものと思われます。

②換価(価格)分割とは、遺産を金銭に換価し、その価値を分割する方法です。現物分割が不可能な場合や、現物分割では著しく価値を損ずるような場合に採られることが多くなります。

また、相続分の比率を調整する目的で、遺産の一部を現物分割し、残りの一部を分割しやすい金額に変え、現物分割で生じた相続分の過不足を修正するということも行われています。

③代償分割とは、遺産の現物は共同相続人中の特定の1人又は数人に取得させ、その取得者に、現物を取得しなかった他の共同相続人に対する債務を負担させる分割方法です。債務負担の方法による分割とも呼ばれています。

審判分割で代償分割の方法を採るには『特別の事由があると認め』られる場合でなければならないのですが、協議分割においては、このような制約はありません。

実務では、遺産が居住用の土地建物のみで、現にそこに相続人のうちのある者が生活しており、その者の生活関係の安定を考慮しなければならない場合や、農地、営業用資産など、細分化を避ける必要性が高いとか、換価しにくいなどの特殊性のある遺産の場合に、代償分割がなされることが多いようです。

代償分割では、債務の分割払いとか、一定期間の支払猶予などの形をとる場合が多く、分割終了後にも、相続人間に長期にわたって債権債務関係が残る煩わしさや、債務の履行確保をどうするか、などの問題が生じます。


④共有とする方法

相続財産の全部または一部を、相続人中の数人ないし全員の共有とする分割方法です。

全遺産を全相続人の共有とすることを認めるかどうかについては否定説もありますが、通説はこれを認めています。

共有による分割は、分割を段階的・漸次に行う必要のある場合や、共同相続人がいくつかのグループに分かれて争っているが、各グループ内部では対立がなくまとまっているような場合に採用されることが多いようです。

⑤その他の遺産分割

遺産が不動産である場合に、共同相続人の1人にその所有権を取得させ、他の共同相続人にその不動産に対する賃借権や使用貸借権などの使用権を設定させるような分割方法も可能となります。

また、被相続人の経営していた個人企業施設などを物的には共有として各自が利益配当を受けるというような分割方法も考えうります。

⑥分割の時期

分割の時期につきましては、特に、制限はありません。

一般的には、相続開始後の葬祭儀礼(例えば49日の儀礼終了後等)等が一通り終わり、共同相続人の気持ちが落ち着かれた頃から遺産分割の話し合いに入られるケースが多いようです。

また、相続税の申告・納付期限である、相続開始のあったことを知った日の翌日から10月以内という期限も分割協議成立の目標時点となっています。


以上、『遺産分割協議の態様』について、お話させていただきました。

 遺産分割協議において配慮すべきこと(2016.11.13)

本日は、『遺産分割協議において配慮すべき事』について、お話させていただきます。

1.相続人の確定について

遺産分割協議を行う際には、相続人の資格のある人を除外して話を進める結果とならないように、被相続人の戸籍謄本等を取り寄せて(大体15歳以降の身分関係の変動が網羅できそうなもの)きちんと把握することが必要です。場合によっては専門家(弁護士や司法書士等)に検討頂いた方が宜しいかと思います。

仮に、認知された『隠し子』がいれば、戸籍を確認することで判明します。

ただし、戸籍からは、死後認知の訴えが出てくる可能性までは判断がつきません。

共同相続人中に行方不明者や生死不明者などがいる場合には、家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらい、財産管理人を関与させて分割を行う方法があります。

2.相続財産(遺産)の範囲並びに評価額の確定

遺産分割の対象となる相続財産を特定できなければ、遺産分割を行う事は困難です。

この点について争いがあり、協議によってその範囲が確定しなければ、家庭裁判所の審判の中で判断するか、又は通常の民事訴訟手続きで争われる事となります。

遺産の評価に関して問題になることが多いのは不動産ですが、協議の段階では何社かの不動産業者の意見を聴いて評価を定め分割協議の話し合いをするのが一般的です。ただし、厳密な評価ということになりますと、不動産鑑定士に鑑定評価してもらうこととなります。

遺産の評価は、遺産分割時を基準に算定するというのが通説・裁判例です。

3.具体的相続分

各相続人の相続分は法定されていますが、遺産分割協議においては相続人全員が合意さえすれば、法定相続分にこだわらず、自由に相続分を決める事ができます。

法定相続分を修正する要素として法文上規定されているものとして、特別受益・寄与分の制度がありますが、協議分割におきましては、あらゆることを、相続分の修正要素として検討の場に持ち出せることとなります。

4.特別な考慮が必要な場合

①農地

農地については、相続によれば非農家でも所有権取得ができますが、農地を細分化してしまいますと農業経営が不可能になってしまう場合が多くなります。

したがいまして、農地につきましては、相続人中農業を承継する者にこれを相続させて農業経営の安定、さらには農業振興を考慮することも必要となります。

②居住用の土地建物

この場合につきましては、現に居住している者の居住利益を考慮する必要があります。

しかし、現実には、都会において居住用の土地や建物が唯一の相続財産である場合、代償分割の方法を採るにしましても住居取得者の負担する債務額が極めて高額となってしまうことや相続税の高額化の問題もあって、これを売却せざるを得ず、居住関係の保護が困難な場合が増えています。

③営業用資産

営業用資産が相続財産である場合、これを分割してしまいますと営業継続ができなくなり使用価値がなくなる事となりますので、できるだけ一体として分割する配慮が必要となります。

④オーナー会社の株式

被相続人がオーナーであった会社の株式の相続については、分割の際に今後の経営支配をどのようにするかを考慮して分割しないと、株主となった相続人間で経営上の意見が一致せず、会社の存続が危うくなるという場合もありますので、特段の配慮が必要となります。

⑤祭祀供用物

現行法上、系譜・祭具及び墳墓等の祭祀供用物は相続とは別個のものとして、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することとなっています。


以上、『遺産分割協議において配慮すべき事』について、お話させていただきました。

 遺産分割協議の効力について(2016.11.14)

今回は、『遺産分割協議の効力』についてを、お話させていただきます。

1.遺産分割の遡及

遺産分割によって各相続人が取得した財産は、相続開始前に、被相続人から直接承継したことになります(これを宣言的効
果といいます)。

民法物権編の規定に従う通常の共有では、共有物分割は分割の時点から効果が生ずるのに対し遺産分割には遡及効があります。

ただし、遺産分割前に相続人の一人が自己の持分を第三者に処分したような場合、第三者を保護するためにこの遡及効は制限されます。

また、遺産分割により相続財産中の不動産について法定相続分とは異なる権利を取得した相続人は、登記を得なければ、分割後にその不動産について権利を取得した第三者に対して対抗することができません。

すなわち、遺産分割による権利取得についても、第三者に対しては対抗要件を備えなければなりません。

2.遺産分割の瑕疵等

①意思表示の瑕疵

協議分割は、共同相続人全員の意思の合致により成立しますが、意思表示が詐欺・脅迫による場合や錯誤による場合には、無効・取消しの主張ができます。

この場合、瑕疵があったことにつき争いがなければ分割協議のやり直しということになりますが、この点について争いがあれば家事審判又は民事訴訟で争うこととなります。

②協議内容の不履行

ひとたび遺産分割協議が有効に成立しますと、協議で定めた内容が実行されない場合でも、債務不履行による遺産分割協議の解除は認められません。

したがいまして、民事調停・民事訴訟等の手続きにより履行を求めてゆくこととなります。

ただし、すでに成立している遺産分割協議につき、その全部または一部を共同相続人全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることはできます。

③親権者の代理権の瑕疵

親権を行う父又は母とその子供との間で利益が相反する行為については、親権者は、その子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければんりません。

親権者が数人の子に対して親権を行う場合で、一人の子と他の子の利益が相反する行為については、その一方の子のために特別代理人の選任をしなければなりません。

遺産分割協議におきましては、相続人である親と未成年の子、あるいは未成年の子同志の間で利益は相反するため、特別代理人の選任が必要であり、この選任なしでされた遺産分割協議は無効となります。

ただし、子が成年に達した後追認したり、又は事後に選任された特別代理人が追認すれば有効となります。

④遺産の脱漏

遺産分割協議後に、遺産の一部が脱漏していたことが分かった場合には、すでになされた遺産分割協議は一部分割として扱うのが通説です。

したがいまして、新たに判明した遺産を対象として遺産分割がさらになされることになります。

実務では、遺産の脱漏を想定して『本協議書に記載されていない遺産が存在することが後日判明した場合には、そのすべてを誰誰が取得する』というように、あらかじめ取得者を決めておくことがあります。

このような内容の分割協議も有効となります。

⑤相続人の一部を除外した場合

共同相続人の一部を除外した遺産分割は無効となります。

共同相続人の一部が除外されて遺産分割がなされるケースとしましては、

□遺産分割後に

・離婚無効確認・無縁無効確認・親子関係存続確認・死後認知・父を定める訴え、の各裁判が確定した場合

□遺産分割後胎児が出生

した場合などが考えられます。


以上、『遺産分割協議の効力』についてを、お話させていただきました。

遺産分割協議の分割方法について・・・(2016.11.15)

本日は、『遺産分割協議の分割方法』についてを、お話させていただきます。

1.概要

遺産を具体的に分割する方法には、現物分割、代償分割、換価分割の方法があります。

それぞれの特徴は次の通りとなります。

(1)現物分割

①遺産をあるがままの姿で分割する方法で、分割の原則的方法となります。

例えば

『AにはA土地を、BにはB土地を、CにはC土地を取得させる。』

『Aには土地を、Bには株式を、Cには現金を取得させる。』

『本件土地は、ABCが各自3分の1の持分をもって共有取得する。』

というような分割方法などです。

②もっとも、実際の分割に際しては具体的相続分と完全に一致する分割はほとんど不可能ですから、ある程度の差は認容され、場合によっては金銭による調整など後述の代償分割の要素を含むことになります。

③現物分割の場合には、遺産の評価が必要になります。

現金や預金のように、金額が明らかなものは特に問題はありませんが、不動産や骨とう品、美術品等の高価な動産類、ある
いは温泉権などの特殊な権利などについては不動産鑑定士などの鑑定評価が必要となります。

④最近の都市部において問題となる事例としましては借地権の現物分割があります。

借地権を一人の相続人に帰属させる、あるいは数人で準共有の関係をもって取得する場合は問題ありませんが、数人で借地を細分化することは地主の不利益になることから地主の承諾なしには許されないと考えるべきです。

⑤実際の調停、審判では、約70%が現物分割(簡易な金銭調整を含みます。)で終了しているようです。


本日は、『遺産分割協議の分割方法』についてをお話させていただきました。
 

 代償分割について・・・(2016.11.17)

本日は、『代償分割』についてお話させていただきます。

1.代償分割

(1)1人もしくは数人の共同相続人にその者の相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりにその相続人に、相続分に満たない遺産しか取得しない相続人に対する債務を負担させる分割方法です。

代償分割は、一部を代償分割の対象とするなど現物分割と併せる方法によって相続人間の調整が容易になり、その実益は大きいものとなります。


(2)代償分割が認められる場合

家事審判規則109条は『特別の事情があると認めるとき』に代償分割することができる、と規定していますが、『特別の事情』についての明文の規定はありません。

現物分割が、相続人の数や遺産の個数・種類・価格などの関係から著しく困難である場合、現物分割により細分化したのでは遺産の価格(社会的価値を含む)が著しく失われるというような場合が特別の事情であろうと言われています。

典型的な事例としましては、農地の相続において農業経営の継続を相当とする場合や特定の相続人が居住利用している土地建物の利用の継続を相当とする場合、あるいは会社経営の安定化のために会社の社員権を特定の相続人に帰属させるなどの場合です。

なお過去に大阪高決で、次の様な要件が挙げられています。

①相続財産が細分化を不適当とするものであること

②共同相続人間に代償金支払いの方法によることについて争いがないこと。

③相続財産の評価が概ね共同相続人間で一致していること

④相続財産を取得する相続人に債務の支払能力があること。


(3)現物を取得する相続人の債務支払いに関する問題

①代償金の分割払い、支払猶予の可否の協議、調停の場合には当事者間の合意を基礎としますから問題はないのですが、後日に債務不履行あるいは解除などの紛争を残さないためにはできるだけ一括払いを考慮すべきと言われています。

審判においては、代償額が多額であるなどの現実に一括払いが困難な場合には分割払いも支払猶予も可能であるとするのが実務の大勢です。

分割金、分割期間、あるいは猶予期間などの具体的内容は当事者間の公平を考慮して判断されるべきと言われています。

②代償金の支払の確保(抵当権等の担保権設定の可否)

①において分割払い、支払猶予を認めた場合、その履行を確保するために審判で利息の決定や担保権の設定などがなしうるかについて議論が分かれるようなのですが、現物を取得する者と代償金の支払いを受ける者との公平を考慮してこれを可とするのが大勢のようです。

もっとも現物を取得する相続人固有の財産に対する担保権の設定は許されずに、担保権の目的物は、分割対象の遺産(結局は取得する現物)に限られるべきであり、審判例でも同様となっているようです。

分割払い、支払い猶予の場合の利息については、民事法定利率の年5分とされることが大勢のようです。

なお、代償金についての連帯保証人等の人的担保については、協議、調停では可能でありますが、審判においては認められないよです。


以上、『代償分割』について、お話させていただきました。

 換価分割と一部分割の可否について・・・(2016.11.21)

本日は、『換価分割』について、お話させていただきます。

1.換価分割

(1)遺産を処分してその対価を相続人で分配する分割方法です。

現物分割や代償分割によることが困難もしくは相当でない場合にとられる分割方法です。

例えば、2筆の土地上にまたがって建物があり現物で分割するとすれば現物の価値を損なう場合や不動産に多額の抵当権等が設定されて相続人では返済しきれない場合、あるいは代償分割を行おうにも相続人に債務負担能力がない場合等です。


(2)協議分割による分割の場合には、上記のような事由がなくても相続人全員の合意のもとになしえます。

また、調停中においても、調停継続中に換価して換価代金を分配する、あるいは調停条項において換価の時期、方法、代金の分配方法などを定めて調停を終結することなどができます。

ただし、調停継続中の換価のように中間的に遺産の一部を処分する場合には、他の遺産の分割との関係(特に審判に移行した場合の関係)を明確にするために書面で合意を明らかにしておくべきです。

なお、相続人が多数のため全員で換価することが困難な場合に、換価すべき遺産をいったん特定の相続人に帰属させたうえで売却処分し、その代金を分配することが間々行われていますが、贈与税を課税される可能性もありますので注意が必要です。


2.一部分割の可否

(1)遺産の分割は、遺産のすべてを一回で分割することが原則です。

しかし、現実の遺産分割にあっては、遺産の種類や性質、あるいは相続人の状況や感情などによって全遺産を同時に分割することが出来ないケースもあります。

例えば、ある不動産が遺産に属するかについての訴訟が継続中の場合、一方に簡易に分割できる現金がある場合で一部の相続人が早急に現金を欲している場合などが考えられます。

このような場合に、協議あるいは調停により一部分割をなすことは通説及び判例はこれを肯定しており、実務においてもしばしば行われています。

(2)しかし、①一部分割が先行した後、残余財産の遺産分割が審判になった場合にどのような影響があるか、②審判において一部分轄がなし得るか、の2点が問題となります。

(3)一部分割協議が先行した後、残余財産の遺産分割が審判となった場合に、遺産分割の協議(調停も含む)は、相続人による任意の合意のもとに行われたものであれば法定相続分と異なった分割でも有効となりますから、相続人全員が一部分割であることを認識している限り錯誤等の意思表示の瑕疵のない限り原則として有効と考えるべきであり、一部分割がなされた遺産は審判分割の対象から除外し、残余財産のみを審判の対象とすることとなります。

ただし、一部分割の対象財産と残余財産の分割との関係に独立性がない場合や遺産の大部分を占める物件が一部分割の協議の対象から脱落している場合や、あるいは残余財産の分配のみでは相続人間の公平がはかれない場合などには、一部分割が無効とされる余地があるようです。

また、一部分割の内容が全く審判に影響しないわけではなく、民法906条の分割基準から見て相続人間に不公平感が生じるような場合には、残余財産の分配に当たって一部分割により遺産を取得した相続人の取得分に影響を及ぼすものと考えられます。

以上のような観点から、一部分割をする場合には、残余財産の分割が控えていることを十分に考慮し、分割協議書または調停調書に、一部分割である旨及びその一部分割が残余財産の分割に際してどのような影響があるのか、ないのかを明確にしておくべきです。

(4)審判において一部分割がなし得るのか?

前述の通り、遺産分割は一回で全遺産の分割を終えることが望ましく、ことに審判においてはこれを原則とすべきです。

しかしながら、一部の遺産について早い時期に分割審判が出来ない場合や一部分割をなすことによって紛争の解決が早期に実現出来る場合などのように、一部分割をすることによって合理性があって、一部分割によって遺産全体についての適正な分割が不可能とならないような場合には、審判による一部分割も認められるべきと考えます。

審判例では、①遺産の範囲に争いが有り、判決による確定を相当とする場合等やむをえない事情があり、かつ分割基準に従った総合的分割の実現に支障がないときに限るものとして厳格に考えるものもありますが、②一部分割をしても民法906条の分割基準による適正妥当な分割の実現が不可能になるような場合でない限り許されるとした例や、③遺産分割当時一部の遺産の存在自体が相続人全員に知られてなかった場合その他相当の理由がある場合には許されるとするものなど緩やかに解されるものあるようです。


以上、『換価分割』並びに『一部分割の可否』についてを、お話させていただきました。


 相続人の確定について・・・(2016.11.23)

本日は、『相続人の確定』についてを、お話させていただきます。

1.相続人の順位

相続には順位が決められており、先順位の相続人がいない場合(相続放棄・欠格・廃除の場合を含む)に次順位の相続人に相続権が生じます。

(1)第1順位の相続人=子

被相続人に子があれば、その子(胎児を含む)は第1順位の相続人となります。嫡出子であると非嫡出子であるとを問いません。

相続開始以前に相続人たるべき子が死亡しているときは、その者にさらに子があれば、その子が相続人となります。これを代襲相続といいます。

相続開始以前に代襲者が死亡していても、その者にさらに子があればその子が相続人となります。これを再代襲相続といいます。

(2)第2順位の相続人=直系尊属

被相続人に子ないし代襲者がいない場合は、直系尊属(被相続人の親など)が相続人となります。

(3)第3順位の相続人=兄弟姉妹

第1順位、第2順位の相続人がいない場合には、兄弟姉妹が相続人となります。

相続開始以前に、相続人たるべき兄弟姉妹が死亡していても、その者に子がいれば、その子が代襲して相続人となります。

ただし、兄弟姉妹の代襲相続においては、再代襲は認められません。

但し、昭和55年12月31日以前の相続につきましては、兄弟姉妹についても再代襲がありますので注意が必要
です。

(4)配偶者=常に相続人

被相続人の配偶者は、前述の(1)~(3)の順位で決まる相続人と常に同順位で相続人となります。

例えば、被相続人に配偶者がいて、さらに子がいれば、その子と配偶者とが共同相続人となります。

子はいませんが親が生きている場合には、その親と配偶者とが共同相続人となります。

(5)被相続人と相続人との間に養子縁組関係があった場合

養子縁組により、養子は養親の嫡出子の身分を取得するから養親子相互間及び養子と養方の親族(直系尊属、兄弟姉妹)との間にも相続が発生します。

普通養子縁組の場合には、養子と実方の父母との親族関係は終了しないので、養子が被相続人となった場合には、実方、養方双方の父母及び親族が相続人となります。

これに対して、特別養子縁組の場合は、実方の父母及び親族との親族関係は終了するので、相続は養方の父母及び親族との関係のみ発生することとなります。


以上、『相続人の確定①』についてを、お話させていただきました。
   

 相続人の確定②について・・・(2016.11.25)

本日は、『相続人の確定②』について、お話させていただきます。

1.相続放棄

相続放棄がなされると、その者は初めから相続人とならなかったものとみなされます。

例えば、推定相続人が配偶者と2人の子がある場合に、子のうちの1人が放棄をすれば、配偶者と放棄をしなかった子とが共同相続人となり、それぞれの法定相続分は各2分の1となります。

ところで、放棄によって次順位の者が相続人となる場合があります。

例えば、推定相続人が配偶者と一人の子である場合に、その子が放棄をすれば、初めから子がいなかったのと同様となり、相続人は配偶者と直系尊属(直系尊属がいなければ兄弟姉妹)となります。

なお、相続放棄の申述が家庭裁判所で受理された場合、相続放棄申述受理証明書の交付を受けることができ、これは登記手続の際の添付書類となります。

2.相続欠格と推定相続人の廃除

民法891条所定の事由(相続人の欠格事由)に該当するものは、相続人となることができません。

なお、相続人欠格事由の一つである遺言書の破棄・隠匿行為については、同条項の趣旨が遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して民事上の制裁を課そうとすることにあるから、相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、当該行為をした相続人は相続欠格者に当たらないとする最高裁の判断が示されています。

また、一定の事由(被相続人に対し虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又はその他の著しい非行があったとき)に該当する推定相続人がいる場合に、被相続人が家庭裁判所に請求することにより推定相続人廃除の審判がなされるときは、被廃除者は相続人となることができません。

なお、推定相続人の意思表示は、遺言でなすこともできます。

相続欠格該当者ないし被廃除者に子がいる場合は、その子は代襲相続人となり、相続の当事者となることができます。

この点で相続の放棄と効果が異なります。


3.相続人の地位が争われる場合

(1)

具体例

相続人の地位及び範囲について争いとなる場合には、相続欠格事由の存否や推定相続人廃除事由の存否が争いとなる場合や、婚姻や養子縁組、離婚、離縁、認知などの効力をめぐり、被相続人との身分関係が争点となる場合などがあります。

このようなときは、これらの前提問題が解決するまで、実施上、遺産分割協議を成立させられないことになります。

前提問題に争いがある場合は、次の二つに分けられます。

①戸籍関係書類によって相続人たることが証明できる者のほかに、のちに相続人が加わる可能性がある場合(離婚や離縁の無効を主張して自分が相続人たる地位にあることを主張する者がいる場合など。)

離婚・離縁無効の主張が認められないことが、誰の目からも明らかだというようなときには、その者を除いて分割協議を作成することも事実上、不可能ではないし、またそれに基づく移転登記などもできるでしょう。

しかし、すでに、その者から相続人たる地位を前提に、遺産分割審判などの申立てをしている場合や相続人たる地位の確認を求める訴訟が提起されている場合には、必ずしもそうはいきません。

なお、相続開始後に認知によって相続人になった者は、すでに他の共同相続人により分割その他の処分がなされていた場合には、価格のみによる支払の請求権を有します。

そこで、相続人の地位や範囲に争いがある場合のうち、のちに相続人が加わる可能性がある争いのとき、とりあえず争いの対象者を除いて遺産分割協議を行い、問題が解決し、後に争いの対象者である相続人の資格が確認されたときは、民法910条を類推適用して価格による請求をさせられないかが問題となります。

この点について、母の死亡による相続につき、遺産の分割その他の処分後に、共同相続人である子の存在が明らかになった事実において、最高裁は民法784条但し書き、910条の類推適用を否定しています。

したがって、当事者たるべき相続人の一部を除外してなされた遺産分割は、民法910条の場合を除いて無効となると言わざるを得ません。

②次に、戸籍関係書類によって相続人であることを証明できる者に対して、相続人たる地位にないことを主張する者がいる争いの場合、すなわち婚姻や養子縁組、認知の無効などを主張して、のちに相続人が減少したり後順位者が相続人になる可能性のある場合があります。

この場合には、争いの当事者を含めて遺産分割協議が成立することはないと思われます。


以上、『相続人の確定②』についてを、お話させていただきました。


 相続人の確定③について・・・(2016.11.27)

本日は、『相続人の確定③について』を、お話させていただきます。

Ⅰ.共同相続人本人以外の者(財産管理人等)が遺産分割協議に現れる場合

1.相続人の行方不明

共同相続人の一部について、生存は明らかだが行方不明となっており、調査を尽くしてもその所在が行方不明となっており、調査を尽くしてもその所在が判明しない場合には、その者を不在者として手続きを進めることとなります。

不在者が自らその財産の管理人を置いている場合は稀となりますので、共同相続人は、利害関係人として財産管理人の選任を家庭裁判所に求める事になります。

この場合の管轄は、不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることになります。

この場合、遺産分割協議は財産管理人を交えて行うことになりますが、財産管理人は協議の成立にあたり、協議事項につき家庭裁判所の許可を得なければなりません。

2.相続人の生死不明

共同相続人中に不在者がいて、その不在者の生死が不明で失踪宣言の要件を備えている場合には、利害関係人すなわち不在者の配偶者、法定相続人など失踪宣言を求めるにつき法律上の利害関係を有する者は、不在者の住所地の家庭裁判所に失踪宣告の申立をすることができます。

失踪宣告の結果、不在者は死亡したものとみなされ、不在者について相続が開始します。不在者に相続人がいることが、明らかな場合には当該相続人が、また相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所で選任された相続財産管理人が、それぞれ遺産分割協議の当事者となります。

相続財産管理人は、不明者の財産管理人の場合と同様に、遺産分割協議の成立にあたり協議事項につき家庭裁判所の許可を得なければなりません。

3.相続人が未成年者である場合

共同相続人中に未成年者がいる場合には、その法定代理人たる親権者が、未成年相続人に代わって遺産分割協議を行うことになりますが、次の場合には利益相反行為となるため、特別代理人の選任を要します。

①親権者と未成年者とが共に共同相続人であり、親権者が未成年者の代理人としても遺産分割協議を行う場合

②親権者を同じくする複数の未成年相続人がいて、当該親権者がそれぞれの未成年者の代理人として遺産分割協議を行う場合

登記実務においては、上記①②いずれの場合にも特別代理人の選任を要求しています。

したがって、前期①の場合、親権者は、子である未成年者相続人のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。


また、②の場合、親権者は、その子である複数の未成年相続人のうちの一人の代理はできますが、その他の未成年者については、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。

4.相続人に胎児がいる場合

胎児は、相続人については、既に生まれたものとみなされます。

従って、被相続人の死亡時にいまだ出生していなくても、出生したら相続人として遺産分割の当事者となります。

ただし、胎児が死体で生まれたときはこの規定は適用されませんので、遺産分割の当事者に胎児がいる場合に出生を待たずにした遺産分割協議は、その後に相続人の一部を欠いたものとして無効となります。


Ⅱ.相続分の移動

1.相続分の譲渡

相続人の身分自体は、もちろん他人に譲渡できるものではありません。

しかし、相続人が有する割合的相続分は財産的価値を有します。

したがって、相続人の意思により相続分を譲渡できると考えられます。

また実際、遺産分割は何時でもできるとはいえ、時間のかかることが少なくなく、相続人にとって早期に相続財産を換価しなければならない場合が生じます。

そこで、民法も相続分の譲渡ができることを前提とする規定を設けています。

ここで、相続分の譲渡とは、あくまでも割合としての相続分を譲渡するもので、個々の相続財産の持分を集合的に一括して譲渡するものとは異なります。

すなわち、例えば、A,B、C、Dとあった場合、それぞれの中での相続分に相当する共有持分を譲渡するのではありません。

相続分の譲渡は、譲受人が、譲渡人たる相続人に代わって、その相続分に基づき遺産分割に参加できるようになる事です。


以上、相続人の確定③』についてを、お話させていただきました。


 相続財産の範囲と評価①について(2016.11.29)

 本日は、『相続財産の範囲と評価①』についてを、お話させていただきます。

Ⅰ.相続財産に包括される権利

1.各種債権

①一般金銭債権

・被相続人が死亡して相続が開始すると、相続人は、被相続人の一身に専属したものを除き、被相続人の財産に属した一切の権利義務を包括的に承継します。一般金銭債権も被相続人の財産に属する権利なので、相続財産に抱含されることは当然となります。

しかし、相続人が複数いる場合には、遺産分割がなされて初めて、各相続人に対する遺産の最終的な帰属が決まります。

・そこで、相続開始後遺産分割までの間、金銭債権はどのような形態で共同相続されるのかが問題となります。

この点、共同相続人の取得する債権は、合有的に帰属するという見解や遺産分割によって最終的な配分が決まるまで性質上不可分債権となるという見解もあります。

しかし、判例は一貫として、金銭債権は分割債権であり、相続開始とともに法律上当然に分割され、各相続人はその相続分に応じる権利を承継するという見解をとっています。

この判例の考え方によれば、預金債権などの場合、各相続人が、被相続人の預金のうち自己の相続分について個々の払い戻しを請求し得ることになります。

しかし、銀行の実務上の取扱いとしては、相続人全員の同意書をとって、全員に払戻しをしているケースがほとんどのようです。

・次に、金銭債権を可分債権であると考えた場合に、そもそも金銭債権は遺産分割の対象となるのかが問題となります。

前述のような判例の見解に立つ以上、金銭債権は当然に分割され、遺産分割の対象とならないとするのが理論的であると言えます。

しかし、共同相続人間の衡平という見地から考えると、金銭債権も含めて遺産分割をする必要がある場合もあります。

このような観点から、金銭債権も遺産分割の対象として考えるというのが、実務の運用となります。

銀行の実務上の取扱いでも、遺産分割後は、分割協議書ないし家庭裁判所の分割に関する調書又は審判の謄本の提出を求めたうえで預金の払い戻しに応じています。


2.賃借権

①賃借権も財産上の権利である以上、相続財産に含まれます。

②賃借権の相続における問題点は、借家人が死亡した場合に、この賃借人と同居していなかった相続人がこの賃借権を相続し、この結果、借家人と同居していた内縁の配偶者が、住居を奪われるのではないかという点です。

この点に関しましては、判例は、あくまでも賃借権は相続人に帰属することを認めたうえで、内縁の配偶者などの同居人は、相続人が取得した借家権を援用し居住の継続を主張しうるとという見解に立っています。

実務上は、判例理論が定着していますが、この見解は、居住の利益は同居人に、賃借権に伴う権利義務は相続人に帰属することとなりますので、若干の問題は残ることとなりえます。

3.損害賠償請求権

①被相続人の有体財産についての損害賠償請求権は、財産上の権利であり、これが相続の対象となることは明らかです。

②これに対し、生命侵害による損害賠償請求権については、民法が被相続人の一身専属権を相続の対象からはずしていることから問題となります。

特に、生命侵害に伴う慰謝料請求につきましては、精神的苦痛が極めて主観的なものであることから、一身専属権として相続の対象とならないのではないかとも考えられます。

過去の判例では、最高裁の慰謝料請求権も相続の対象になるとしたものがあります。

4.生命保険金

①生命保険金請求権は、その取得が、死亡の原因とする点で相続と類似するが、保険契約で受取人を個別的に定めることができるという点で相続人が規定されている相続の場合と異なります。

②そこで、以下のとおり場合を分けて検討します。

ⅰ.保険金の受取人として特定人(妻あるいは夫)が指定されている場合

この場合、生命保険契約は第三者のためにする契約であるから、その契約の効果として、受取人が生命保険契約請求権を自分の固有の権利として取得します。
したがって、この場合には相続財産に包含されないこととなります。

ⅱ.保険金の受取人を単に『相続人』とした場合

この点につきましては、相続財産に含まれると考える見解もありますが、この場合の表示は、保険契約者の相続人たるべき個人を表示するものにすぎず、相続財産に包含されないと考えるべきです。

ⅲ.このように、生命保険金請求権を生命保険金受取人の固有の権利であるとすると、保険金受取人は、これとは別個に、他の共同相続人と共に相続財産からも遺産分割を受けることとなります。

こう解すると、生命保険金が高額になっている現在の状況から、生命保険金の受取人となった相続人があまりにも有利となり、相続人間の衡平を欠くこととなります。

これを、調整する方法が、持ち戻しであり、保険金を持ち戻しとした審判例もあります。

また、持ち戻しの対象とされたものは、当然遺留分算定の基礎財産に算入され、減殺の対象となります。


以上、『相続財産の範囲と評価①』についてを、お話させていただきました。


    

 相続財産の範囲と評価②について・・・(2016.11.30)

      本日は、『相続財産の範囲と評価②』についてを、お話させていただきます。

1.退職金

①労働者が労働契約の継続中に退職し、退職金を受領してから死亡した場合には、通常の相続財産として扱えば足ります。

問題となりますのは、労働者が労働契約の継続中に死亡し、退職金が支給される、いわゆる死亡退職金の場合です。

すなわち、死亡退職金は被相続人の死亡を契機として発生するところから、相続財産に包含されるかどうかが問題となります。

ⅰ.受給権者が法律条例等によって定められている場合
この場合、死亡退職金も相続財産に含まれ、受給権者の指定は、あくまでも受取人代表者を定めたにすぎないとする見解もあります。

しかし、判例は、受給権者が法律等で定まっている場合、その物固有の権利であり、相続財産には包含されないとしています。

さらに、私企業の死亡退職金につき、退職金規定(内規)により受給権者が定まっている場合にも、その定められた者固有の権利であって、相続財産に包含されないとしています。


ⅱ.退職金規定に受給権者が定まっていない場合

この場合は極めて問題であり、学説・判例ともまだ定説は無いようです。

ただ、規定がない場合でも、理事会の決議により配偶者に支給された場合には、受給権者固有の権利であるとする判例はあります。

通常、死亡退職金については法律等で受給権者が定められていますが、これは遺族の生活保護として定められているものです。

この点からしますと、規定がなくても、相続財産とするのではなく、生計を共にしていた遺族固有の権利と解するのが、本来の趣旨にかうのではないかと思われます。

この点、受給権者が定まっていない以上は、相続人が取得するべきであるという見解もあります。

②次に、死亡退職金について受給権者固有の権利であると考えた場合に、持戻しが認められるべきかが問題となります。
この点につきましては、肯定する審判例と否定する審判例があります。

個々の事案によって、共同相続人間と受給権利者との生活保障の調和の観点から考えるべきと考えます。

2.遺族年金

これは、死亡退職金と同様に受給権者の固有の権利と考えられます。

そして、持戻しも認めるべきでないと考えらるようです。

遺族年金は、死亡退職金よりもさらに受給権者の最低の生活保障という趣旨が強いものでありますから、上記のように考えるべきのようです。


3.債務

①金銭債務

ⅰ.相続人は、被相続人の死亡により、同人の有している財産上の権利のみではなく義務をも承継します。

したがって、金銭債務をも承継することはいうまでもありません。

ⅱ.ただ、相続人が複数いる場合には、この債務をどのように承継するのかが問題となります。

この点、判例は一貫して、金銭債務のような可分債務は、遺産分割を経ることなく、その相続分に応じて各共同相続人が承継するとしています。

しかし、このように考えますと、相続人の中に無資力の者がいたりすると、債権の回収が困難となり、相続という偶然の事情で一方的に債権者が不利になるのではないかという問題もあります。

このような場合には、財産分離や破産制度を利用することによって、その不利益を除去する手段がありますので、判例の立場がそれほど不当とはいえません。

ⅲ.金銭債務については、分割債務と考えるとそもそも遺産分割の対象とならないことになります。

実務上も同様に取り扱われています。

②保証債務

ⅰ.通常の保証債務は、その保証債務の額が明確になっており、通常の金銭債務と同様に相続の対象となります。

ⅱ.しかし、継続的取引から債務者が将来負担する債務を連帯して保証した場合が問題となります。

この点、判例は、責任限度額と保障期間の定めがない保証契約の場合には、その相続性を否定しようとしています。

ⅲ.また、身元保証の場合も、上記の場合と同様にその相続性は否定されています。


以上『相続財産範囲と評価②』について、お話させていただきました。


 相続財産の範囲と評価について③(2016.12.5)

      本日は、『相続財産の範囲と評価③』について、お話させていただきます。

1.遺産の変動

相続開始から遺産分割までに、かなりの期間を要する例が少なくありません。

その間、遺産を構成する個々の財産に変動を生じる事があります。

例えば・・・

①遺産から利息が発生したり、賃料が得られたりします。

②遺産が、天災又は他人の行為によって棄損・滅失することがあり、相続人の処分によって遺産の一部又は全部が散逸することがあります。

③遺産の保存、修理等のために費用が支出される場合もあります。

これらの財産の変動を遺産分割の際どのように扱うかが問題となります。

①の問題が、遺産からの収益の問題であり、②の問題が、代償財産の問題であり、③の問題が、遺産の管理費用の問題です。

相続財産に変動が生じた場合、どの時点の財産をもって遺産と捉えるかについては、見解が分かれています。

ⅰ.相続開始時説

この説は、相続開始当時に存在した被相続人の財産を遺産と捉えます。

相続開始時説によれば、相続開始時の財産を遺産と捉えますから、遺産の変動という概念は考えられません。

遺産の滅失の場合にも、遺産分割を行い、その遺産の分割を受けた相続人が、滅失につき責任のある者に対して損害賠償請求権を取得することとなります。

また、遺産からの収益は、その遺産の分割を受けた相続人から、その収益を取得した者に対する不当利得返還請求の問題となります。

遺産の管理費用の問題は、特定の遺産に生じたものであれば、支出した者からその遺産を取得した者に対する不当利得返還請求の問題となり、全体について生じたものであれば、相続人間で償還請求が問題となります。

いずれにしても、遺産分割手続でこれを行うことはできず、通常の民事訴訟手続によらなければなりません。

ⅱ.遺産分割時説

この説は、遺産分割の対象となる相続財産は、分割時に現存するものに限るとします。

なぜなら、遺産分割は、相続人の共有に属する相続財産をその相続分に従って公平かつ合理的に分配する制度であり、また将来に向かって、新たな権利又は法律関係を形成することを本質的目的とするものであり、相続開始時にさかのぼって過去の権利又は法律関係の確認を直接の目的とするものではないからです。

この遺産分割時説が多数説であり、多くの審判例もこれに従っています。


2.遺産からの収益

遺産から収益があがった場合、その収益が相続財産となるか否か、すなわち、その収益の分割は遺産分割手続によるのか共有物分割手続によるかが、問題となります。これについては、つぎの3点があります。

①積極説

相続人は、相続財産を管理しなければなりません。

この管理行為によって遺産分割時までに取得した収益(不動産賃貸料から管理費用を差し引いたもの等)は、相続開始当時に存在していた相続財産ではないが、遺産より産出されたものです。

遺産の包括的な性格、民法909条の趣旨によりして、これのみを分離して共有分割の方法によらしめるのは適当でなく、むしろ、一般の遺産とともに、遺産分割の審判の対象になるものと解すべきとしています。

②消極説

相続開始後、相手方が取得した相続財産である農地の小作料、自作収益、宅地の占有利益が相続財産に属しないことは、これらの収益がいずれも相続開始後生じたものであることから明らかです。

相続財産は分割に至るまで相続人の共有に属することから、これら相続財産からの収益も相続人の共有であると解されますが、しかし、あくまで相続財産とは別個の共有財産です。

③折衷説

相続開始後、相続財産から生じた果実は、相続財産とは別個の共有財産であり、その分割、清算は、原則的には、訴訟手続によるべきものですが、相続財産と同時に分割することによって権利の実現が簡便に得られるなどの合意性を考慮すると、当事者間に合意がある場合には、上記果実を相続財産と一括して遺産分割の対象とすることができると解すべきのようです。

この見解は、原則消極的に立ちながら、積極説の遺産の包括的把握、共同相続人間の平等・公平・紛争の全面的一回的解決という視点をも考慮したうえで、相続人の合意のもとに、遺産分割手続でもその分割ができるとします。

その後、この見解が裁判所の主流を占めるに至りました。


以上、『相続財産の範囲と評価③』について、お話させていただきました。

  

 相続財産の範囲と評価について④(2016.12.8)

 本日は、『相続財産の範囲と評価④』について、お話させていただきます。

1.代償財産

相続開始時から遺産分割時までに、遺産に含まれる建物等が焼失した場合の火災保険金や、相続人の1人が遺産中の物を処分した場合の対価(動産の即時取得が成立する場合や他の相続人が追認した場合)といった代償財産が、相続財産に含まれるかどうかは、問題である。

含まれるとすれば、遺産分割手続で分割できるが、含まれないとすれば、民事訴訟手続に委ねざるを得ないようです。

代償財産が遺産分割の対象となるかについては、見解が分かれています。

①積極説

『相続財産に属する株式を、相続人が遺産分割前に勝手に処分したときは、その株式にかわり、同人に対する代償請求権が分割の対象となる』、『遺産たる土地と家屋のうち、土地が県の用地買収の対象となった場合には、遺産として相続の対象となるものは、右家屋と土地買収代金とであり、家屋等移転補償費(家屋の時価の約3倍)は、本件遺産分割により当該家屋を取得した相続人の所有となります。』

②消極説

『建物、部屋が相続開始後相手方により取り壊され、それによりその余の相続人が同人に対し損害賠償請求権、あるいは不当利得返還請求権を有するに至ったとしても、これらの債権は相続開始後生じた右相続人らの固有の債権であり、被相続人から承継された相続財産ということはできないから、協議あるいは調停による遺産分割に際し事実上清算するのは格別、審判において各相続人の具体的相続分を確定する上に考慮すべきでない』

裁判例は上記のように分かれていますが、積極説がやや優勢で、学説では積極説が通説のようです。

そして、積極説は、

①遺産分割の制度趣旨は、全遺産を各相続人の個別的事情を考慮しながら、総合的、合目的に分配することにあります。

遺産から分離した財産がある場合には、本来の相続財産に代わる代償財産が存在する限り、これを遺産分割の対象とすることが制度趣旨に合致します。

②この代償財産の処理を民事訴訟に委ねざるを得ないとすると、当事者の負担も看過し難く、同一紛争を異なる手続で処理することになり妥当とはいえず、場合によっては、相続人間の具体的公平を損なうこととなる、ということを根拠にしています。

これは、すでに述べた『遺産からの収益』の場合の積極説ないしは折衷説とほぼ同様の理由です。

こうしてみると、同様に代償財産の把握(その前提としての遺産の把握)に困難が伴い、その内容に争いがあり、それを遺産分割手続で確定することが困難な事例は当然予想されます。こうした場合『遺産からの収益』での折衷説と同様の考えが主張され、また裁判例でも採用されてくることが今後予想されます。


2、管理費用

①管理費用について

遺産の管理費用については、民法885条1項本文において『相続財産に関する費用は、その財産の中から、これを支弁する』としているので、相続財産によって清算されるものです。

しかし、この清算は、遺産分割手続内で行うのか、分割手続とは別の民事訴訟で行うのかが問題となります。

これにつきましては、『相続債務は各相続人がその相続分に応じて負担すべきものであり、仮に相続人の1人が他の相続人のために相続債務又は相続財産の管理費用を立替払いをしたとしても、その償還請求権は遺産分割とは別途に行使すべきである。』として、消極に解する裁判例もありました。

しかし、『相続財産の管理に必要な費用は相続財産から支弁すべきものであるから、分割すべき相続財産およびその収益の額を算定するに当たっては、当然右のような管理費用を控除すべきである』として、遺産分割手続内での清算を積極に解する見解が実務の主流となります。

ただし、何らかの事情により管理費用のみが残されたときは、他の共同相続人に対し、民事訴訟手続によりその相続分に応じて請求する以外はありません

遺産の管理費用には、保存に必要な費用すなわち必要費が含まれることに争いはありませんが、利用・改良に必要な費用すなわち有益費、公租公課、相続債務の弁済費用等が含まれるかについては争いがあります。

②有益費

ⅰ.積極例  

相続人が建物につき保存のために支出した必要経費及び有益費については、同人が相続開始後から現在まで建物を使用したその賃借料と差し引きと認めるのが相当であるとの審判例があります。

ⅱ.消極例

遺産分割のための相続財産の評価は、分割時を基準とすべく、そのときまでに加えられた遺産に対する改良費は、分割によりその物を取得する相続人に対し、遺産分割手続外にて償還請求し得るから、分割裁判において考慮する必要はないとの裁判例があります。

③公租公課

ⅰ.積極例  

遺産たる土地建物の一部を管理するにつき支出した固定資産税は、相続財産に関する費用として、相続財産から支弁すべきものであるとの裁判例があります。

ⅱ.消極例  

遺産に関する固定資産税については、相続人間で遺産分割審判とは別個に清算すべきであるとの裁判例があります。

④相続税

ⅰ.積極例  

相続人の一人が立替払いした相続税につき、相続人全員が、遺産分割における清算を希望しているときに、遺産分割手続内での清算を求めた審判例があります。

ⅱ.消極例

相続税は、各共同相続人が遺産分割によって取得した具体的相続分に応じて、各相続人が負担すべきもので、遺産分割手続において清算すべきものではないとする審判例があります。

⑤相続債務の弁済費用

ⅰ.消極例  
相続人の一部の者が、遺産分割前に被相続人の債務を弁済したような場合には、その債務並びに弁済がいずれも正当と認められる限り、相続財産に関する費用と同様、遺産分割手続中で清算するのが相当であるとの裁判例があります。

ⅱ.積極例  

他の共同相続人のために相続債務の立替弁済をしたとしても、その償還は通常の民事訴訟手続きによるべきで、遺産分割の審判事件において求めることはできないとの裁判例があります。

    

 相続財産の範囲と評価⑤について・・・(2016.12.10)

本日は、『相続の財産と評価⑤』について、お話させていただきます。

1.相続財産の評価時期

①具体的相続分算定のための評価時期

共同相続人中に、被相続人から婚姻、養子縁組のためもしくは生前の資本として贈与を受けたものがある場合、その特別受益者の贈与財産を持戻財産といいます。

この財産は、民法903条により各相続人の具体的相続分を算定する前に、その財産の価格を評価して、これを遺産の評価に合算します。

この評価時期に、つきましては、これまで説は分かれていましたが、最高裁の判例としまして『被相続が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右記贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価するものと解するのが、相当である。』として以来、民法903条の明文からも明らかとなっており、相続開始時期が実務上とられています。

②現実に遺産分割するための評価時期

遺産分割が、相続開始時より相当期間を経過して行われることがあります。

このような場合に、遺産の評価をいつの時点で行うかによって、個々の財産の価格変動とも関連して、各共同相続人間に不公平な結果が生じます。

この遺産分割の時期につきましては、相続開始時説と遺産分割時説とがあります。

ⅰ.相続開始時説  

この説は、遺産の評価を相続開始時の時価で評価するものとします。

遺産分割に遡及効があることを根拠とし、具体的相続分算定のための評価時期とパラレルに考えようとします。

ⅱ.遺産分割時説  

この説は、『遺産の分割は、共同相続人が相続に困りその共有に帰した相続財産を、その後分割の時点において、相続分に応じこれを分割するのを建前としているのであるから、相続財産の評価は相続開始時の価額ではなく、分割当時のそれによるべきものと解するのが相当である。』とする裁判例があります。

①すでに遺産分割の対象として遺産分割時説をとっていること、

②遺産分割がされたときにおける各共同相続人が取得する財産の価値的公平を図ろうとしていることを理由とします。

この説が通説であり、実務も現在はこの説によって運用されています。

この分割時とは、審判確定時をいいます。

しかし、通常評価時期と審判確定時の間には時間的間隔がありますから、厳密な意味で審判確定時の時価を算定することは困難となります。

審判時にできる限り接近した時点の時価を評価することになります。

また抗告審が原審判を取り消して差し戻した場合や、抗告審が審判に代わる裁判をする場合には、遺産の再評価が必要とされるこもあると思われます。

2、相続財産の評価方法

①評価の重要性

遺産分割は、総遺産を具体的相続分に応じて分割するものですから、各相続人が分割によって得た遺産を換価すれば、具体的相続分と等しくなってはじめて各相続人の公平が図られます。

このため、全遺産の客観的価値(時価)を把握することが必要となります。

もっとも、当事者間の合意による遺産分割協議におきましては、遺産の評価額を明らかにせず分割することも可能ですし、遺産の客観的価値のみならず、主観的価値をも考慮して遺産の評価を行うことも許されます。

しかし、後日に紛争の余地を残さないためには、分割合意の前提として遺産の客観的価値を明らかにしておくことが必要となります。

また、遺産分割審判事件におきましては、相続分に応じた分割がされていることを明らかにするため、前提問題として、遺産の客観的価値を認定することが不可欠であり、これを怠った審判は違法となる裁判例があります。

②評価の資料

評価額につきまして当事者間に争いがあるような場合や、専門的知識、経験を有する者以外には算定が困難な場合は、不動産鑑定士(土地)や公認会計士(非上場会社の株式等の価額や営業権)等に鑑定してもらうことが原則となります。

この費用は、家事審判規則11条によりますと、家事審判、調停の証拠調べの費用は国庫の立て替えが原則とされていますが、実務の現状では、鑑定費用を含めて家事事件の手続費用は、当事者の予納が原則的になっていますので、鑑定費用を予納することが必要となります。

なお、固定資産税評価額、相続税評価額、地価公示価格、都道府県内地価調査価格に一定の倍率を乗じる方法によって、土地の時価を算定する便法もありますが、大雑把な目安としてはともかく客観性に乏しくなります。

したがいまして、当事者が上記の評価方法に合意している場合におきまして、遺産のほとんどが土地であり、現物分割するとしましても、調整金の授受が全く不要になるような場合には、このような便法によって評価することも可能であると思われます。

③評価の具体例

ⅰ.不動産

不動産の正式な鑑定におきましては、不動産の再調達原価について減価修正を行って価格を決める原価法、多数の取引事例から事情補正及び時点修正をし、かつ地域要因の比較や個別的要因の比較を行って価格を求める比較法、不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の原価の総和を算出し、還元利回りで還元して価格を求める収益法の3方式があります。

この3方式を併用することによりまして、初めて、不動産の適正な価格を算定することが可能になるといわれています。

なお、調停において家庭裁判所調査官の調査結果を主として不動産の時価認定の資料とすることもあります。

その土地の評価方法を要約すれば、まず不動産を確定したうえで、東京都宅地建物取引業界発行の『東京都地価図都市計画図』(大阪府の場合は、大阪府宅地建物取引業協会発行『大阪府宅地価格地点図』)によって近接類似の基準地を選定し、その基準値の実勢価格を把握し、宅地条件の比較をし、画地条件による補正、時点による修正をして更地価格を算出します。

その後、権利関係による補正を行います。

すなわち、比較法によって評価しています。また、建物については原価方式によって、評価しています。

ⅱ.株式

上場株式は、取引相場が明らかであり、分割時に最も近接した時点での取引価格、あるいは近接の一定期間の平均額によって算定します。

非上場株式の場合は、商法上の株式買取請求における価格の算定や相続税賦課のための税務署の評価方法を参考としています。

前者は

①純資産評価方式、

②収益還元方式、

③配当還元方式、

④類似業種批准方式があるとされていますが、実務では、会社の実態に応じて各方式を組み合わせて評価しています。

後者は、当該相続人が同族株主以外の株主になる場合は相続した株式を配当還元方式で評価し、相続人が同族株主となる場合は会社を大中小と分け、それに応じて定められた各評価方式によるものです。

いずれの方法によるにせよ、取引や経理についての相当高度な知識経験がなければ的確な評価をすることは困難であり、専門家の鑑定が必要とされる場合が多いようです。


以上、『相続財産の範囲と評価⑤』について、お話させていただきました。


 特別受益①について・・・(2016.12.12)

本日は、『特別受益①』について、お話させていただきます。

1.特別受益の意義

①特別受益の意義

民法は、共同相続人間の平等を図るため、相続人に対して遺贈及び一定の生前贈与といった財産分与と見られるものがなされている場合に、その遺贈等を『特別受益』と呼び、これを遺産分割時に精算する規定を設けています。

すなわち、遺産分割に際し、相続財産に特別受益である生前贈与を加えたもの(遺贈は相続財産に含まれているので加算する必要はない)を相続財産とみなし(みなし相続財産)、これを基礎として各相続人の相続分(一定の相続分)を算定し、特別受益を受けた者については、この一定の相続分から特別受益分を控除し、その残額をもってその特別受益者が現実に受くべき相続分(具体的相続分)とするとしています。

このように、特別受益を相続分算定の基礎に算入する計算上の扱いを、『持戻し』と称していますが、特別受益の付与は相続分の前渡しの趣旨で行われることが多く、したがって持戻しをすることが一般的には被相続人の意思に推測されることもこの制度の根拠とされています。

②超過収益

特別受益が『一応の相続分』を超過する場合については、超過分を返還する必要はなく、ただその相続において新たに財産を取得することはできないとされています。

このようにすることが、多額の財産を与えた被相続人の意思解釈に合致するとともに、超過分につき返還すべきであると、特別受益者に不測の損害を与え、かつ法律関係を徒に煩雑にするからです。

ただし、超過特別受益が他の相続人の遺留分を侵害するときは、その限度で遺留分減殺請求の対象となります。

ところで、超過特別受益者がいる場合に、超過特別受益者を除く相続人間ではどのように相続分を算定するか、逆にいえば超過受益によって減少する分をどのように分担するかにつきましては、大別すれば、①超過受益者は不存在とみなして他の相続人間で改めて相続分の算定をすべしとする見解の判例と②超過受益者を除き、他の相続人間で全相続人の相続分の割合で相続分の算定をすべしとする見解の判例があり、①と②で対立しています。

例えば、相続財産が6000万円、相続人は妻甲と嫡出子乙丙丁の4名で、乙は1800万円の生前贈与を受けており、丁は1200万円の遺贈を受けているとします。

この場合、みなし相続財産は相続財産6000万円に1800万円の生前贈与を受けた7800万円となり、一応の相続分は甲が3900万円、丙丁は各1500万円となり、丁についてはここから1200万円の遺贈を控除した残額300万円が具体的相続分となります。

これに対し、②の計算方法によれば(細かく言えばこの中でも3種の計算方法がありますが、ここでは代表的な見解に従います)、当初の計算による甲、丙、丁の具体的相続分、すなわち、甲3900万円、丙1300万円、丁100万円の比率によって、1200万円の遺贈を控除した現実の相続財産4800万円を分配することになり、その結果各自の具体的相続分は、甲が3532万755円、丙が1177万3585円、丁が90万5660円ということになります。

③持戻免除の意思表示

被相続人が、持ち戻しをしなくてよいといういわゆる持戻免除の意思表示をした場合には、持戻しをしなくてもかまわないとされています。

持戻制度は、前記の通り、持戻しをすることが被相続人の通常の意思にも適うということがその根拠とされているからです。

遺贈についての持戻免除の意思表示は遺贈が要式行為である関係から遺言によってなされる必要がありますが、生前贈与についての持戻免除の意思表意は、特別の方式は必要ありません。

贈与と同時でなくてもよく、また明示たると黙示たるとを問わないと解されています。

したがって、生前贈与による特別受益者としましては、持戻しを始める前に、持戻免除の意思表示があったと解し得ないかどうかを一応検討しておく必要があります。

例えば、共同相続人の一人に贈与がなされているにもかかわらず、この贈与に言及することになく遺言で相続分の指定をしているような場合には、持戻免除の意思表示を認めることができるものとした判例があります。

なお、持戻しを免除された特別受益が他の相続人の遺留分を侵害している場合につきましては、持戻免除の意思表示は当然に無効となると解する見解もありますが、多数説は、単に遺留分減殺請求権を与えるにとどまると解しています。


以上、『特別受益①』について、お話させていただきました。
 

 特別受益②について・・・(2016.12.20)

本日は、『特別受益②』について、お話させていただきます。

1.特別受益の範囲

特別受益として持戻しの対象となる財産は、『遺贈』又は『婚姻、養子縁組のための贈与』もしくは『生計の資本としての贈与』です。

生前贈与について一定の限定が加えられた理由は、前記のような趣旨に基づく贈与であれば相続分の前渡しの趣旨で行われたものと通常見うること及び前記に該当しない少額の贈与まで含めると計算が煩雑となって面倒だからということになります。

①遺贈

遺贈はその目的にかかわりなく、すべて持戻しの対象となります。

②生前贈与

特別受益として持戻しの対象となる贈与であるか否かの設定は、当該生前贈与が相続財産の前渡しとみられる贈与であるか否かを基準にしながら相続人間の公平を考慮して判断されるべきであるとされています。

ⅰ.『婚姻、養子縁組のための贈与』

持参金、嫁入り道具、結納金、支度金など婚姻又は養子縁組のために特に被相続人に支出してもらった費用がこれにあたるということに異論はありません。

葬式費用につきましては、これに含まれるという見解と含まれないという見解がありますが、通常の葬式費用は含まれないと解する見解が有力です。

ⅱ.『生計の資本としての贈与』

『生計の資本』とは一般にかなり広い意味に解されています。

典型的な事例である子が別の世帯をもつ際に不動産を分与した場合や営業資金を贈与した場合、農家において農地を贈与した場合などに限らず、生計の基礎として役立つような贈与は一切これに含まれるとされており、相当額の贈与は特別な事情がない限りすべてこの特別受益とみて差し支えないとさえいわれています。

ただし、あくまで『生計』の基礎となるものに限られ、ある子だけが特別に可愛がられて小遣銭を多くもらったというような場合は、これに含まれないとされています。

また、扶養のために付与された財産も、扶養は義務の履行であって贈与ではないから、特別受益とはなりません。

教育費も、高校程度では通常これに含まれませんが、子の1人だけが大学教育を受けそのための学資を受けているような場合には、特別受益に当たると解されています。

もっとも、教育費が特別受益に当たるか否かは、被相続人も生前の資産収入及び家庭事情等具体的状況により異なり、審判では、肯定例も、否定例もあります。

ⅲ.生命保険金と死亡退職金

これらは純粋な意味での相続財産には含まれません。

しかし、その効果において遺贈と同様の機能を有するため、遺産分割にあたっては特別受益に準じてこれらの持戻しを考慮すべきではないかということが実務上しばしば問題となります。

学説上は、相続人間の実質的公平を重視して、持戻しの対象となると解する見解が多数のようですが、審判例は分かれています。

例えば、生命保険金や国家公務員の死亡退職金についての実質的公平の見地から特別受益にあたるとしたもの、保険料の支払等被相続人の生存中その財産から何らかの出損があることなどを理由として生命保険金及び死亡退職金について特別受益にあたるものとしたものなど肯定審判例がある一方、生命保険金や死亡退職金は文理上特別受益に該当しないこと、これらは生活保障のために付与されるものであるからこれを相続分とは別に取得しても公平に反しないのみならず被相続人の通常の意思に沿うと思われることなどを理由に特別受益にあたることを否定した審判例もあります。


以上、『特別受益②』について、お話させていただきました。


特別受益③について・・・(2016.12.21) 

本日は、『特別受益③』について、ご紹介させていただきます。

1.特別受益者の範囲

特別受益者となるのは特別受益を受けた『共同相続人』であるが、実際上、次のような者について問題が生じます。

①代襲相続人

代襲相続人と特別受益の問題につきましては、その特別受益を受けた者が被代襲者であるか、あるいは代襲者であるかによって様相が異なります。

まず、被代襲者が特別受益を受けた場合に、代襲相続人は被代襲者の持戻義務を引き継ぐかという問題があります。

これにつきましては、かつては持戻義務を引き継がないとする見解が有力でしたが、最近は持戻義務を引き継ぐとする見解が有力となっています。

審判例では、被代襲者が受けた当該特別受益の性質が高等教育の費用という受益者の人格と共に消滅する一身専属的性格のものであることを理由として代襲相続人の持戻義務を否定したもの、代襲相続人が被代襲者の特別受益によって現実に経済的利益を受けている場合に限りその限度で持戻しをさせるべきとしたうえで、被相続人が出損した被代襲者の外国留学の費用につきましては代襲相続人の持戻義務を否定したものなどがあります。

一定の場合に持戻義務を引き継ぐと解する点で、折衷的立場といえます。

次に、代襲者自身が直接特別受益うぃ受けた場合につきましては、代襲者が被代襲者の死亡等により共同相続人となる前に受けたものは特別受益に該当しませんが、相続人となった後に受けたものは特別受益に該当し持戻義務を負うと解する見解が通説的でした。

しかし近時は、共同相続人間の実質的公平を図る見地から、特別受益者は相続開始時に共同相続人となっていれば足り、受益の時期に拘わらず持戻義務を負うと解する見解が有力に主張されています。

②包括受遺者

これにつきましては、『相続人と同一の権利義務を有する』ことから持戻義務を肯定する見解もあります。

しかし、包括受遺者が共同相続人の一人であればともかく、それ以外の第三者であるときは、被相続人としては持戻しを予定していないのが通常であると考えられ、このような場合は、持戻義務を否定する見解が多数説となります。

③間接的受益者

相続人がその配偶者や子の特別受益を通じて間接的に経済的利益を受けている場合、これをその相続人の特別受益と解すべきでしょうか。

これにつきましては、学説は一般に否定的です。審判例としましては、相続人の配偶者に生前贈与がなされた事例におきまして、贈与の経緯、価値、性質、これにより相続人が受けている利益などを考慮し、実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならない認められるときは相続人の特別受益とみることができるとして持戻義務を肯定したものがあります。

間接的受益者まで含めると、特別受益者か否かの判断が困難となり、かえって紛争を増加させかねないことを考えると、原則として間接的受益は特別受益と解すべきではないと思われます。

しかし、実質的には、上記審判例の事案のごとく実質的に見て直接受益と同視し得る事案もあり得るので、かかるときに、例外的に持戻義務を肯定すれば足りることと思われわす。


以上、『特別受益③』についてご紹介させていただきました。


 特別受益④について・・・(2016.12.22)

本日は、『特別受益④』について紹介させていただきます。

1.再転相続と特別受益

相続が開始して遺産分割未了の間に第二次の相続が開始した場合において、第二次被相続から特別受益も受けた者があるときは、その持ち戻しをして具体的相続分を算定しなければなりません。

2.特別受益の確定

寄与分の確定につきましては家庭裁判所の審判事項であることが明文で規定されていますが、特別受益の確定につきましては現行民法に明文がないため、これが訴訟事項か審判事項か争いがあります。

この問題につきましては未だ定説は見ませんが、審判事項と解するのが実務の大勢ではないかと思われます。

3.相続分なきことの証明書

登記実務上、しばしば『相続分なきことの証明書』なるものが提出されることがあります。

これは、共同相続人の1人あるいは一部のものが『私は既に相続分を超過する贈与を受けているので、被相続人の死亡による相続人については相続する相続分はないことを証明します』という趣旨を記載した書面で、これと作成者の印鑑証明書を添付して、他の相続人から相続登記の申請があった場合、これを受理して相続登記をしているのが古くからの登記実務の扱いです。

ところで、このような登記実務がなされているために、また相続放棄の申述手続に手数と費用がかかることもあり、正規の相続放棄や遺産分割協議などの手続きによらずに相続人の一部の者に相続財産を取得させる便法として、超過特別受益などないにもかかわらず、これをあるかのごとくに記載した内容虚偽の証明書が作成されることが時として見受けられます。

このような内容虚偽の証明書は本来作成すべきではありませんが、現実問題としてこのような書面が作成された場合にその効力をいかに解するかが問題となります。

まず、作成者がその証明書の意味内容を理解していない場合は、もちろんその書面は無効と解されます。

問題は、作成者がその意味内容を理解して作成している場合ですが、その証明書の作成及び交付という事実行為から一定の法律行為を推認できないかが問題とされています。

これにつきましてはかかる推認を否定する判例もありますが、最近は、相続分の譲渡、放棄、贈与があったとみたり、遺産分割協議の成立があったとする裁判例が増えているようです。

推認が可能かどうか。可能としてどのような法律行為の推認ができるかは、要は事実認定の問題に帰着するものと思われます。


以上、『特別受益④』について、紹介させていただきました。
 

特別受益⑤について ・・・(2016.12.23)

本日は、『特別受益⑤』について、ご紹介させていただきます。

1.特別受益の評価

①特別受益の評価の基準時

具体的相続分を算定する際に控除する特別受益額の評価時点は、通説及び多数の審判例で相続開始時としています。

つまり、過去になされた贈与であっても、その対象物の相続開始時の評価額にひき直して特別受益額とされるわけです。

これに対して、現実に遺産を分配する当たっての遺産自体の評価につきましては遺産分割時説が通説です。

このため、実務では、特別受益及び寄与分につきましては相続開始時を基準として算定して具体的相続分を定め、これを前提として遺産分割時を基準として現実の分割を行うというのが多くの取り扱いとなっています。

②贈与の目的物の滅失又は価額の増減

受贈者の行為によって贈与の目的物が滅失したり価額の増減があった場合につきましては、相続人間の公平を維持するため、その目的物が相続開始当時、贈与当時の状態のままで存するものとみなしたうえで、そのような状態の目的物を相続開始時の時価で評価するものとされています。

この場合の受贈者の行為には、行為のみならず過失も含むものと解されています。

したがいまして、例えば贈与当時500万円の不動産を贈られその後これを1000万円で売却した場合も、その不動産が贈与当時の状態のままであるものと仮定して相続開始時の価格で5000万円と評価されるようであれば、当該贈与は5000万円の特別受益額となります。

なお、前記規定の反対解釈として、受贈者の行為によらずに贈与の目的物が滅失したり価額の増減が生じた場合につきましては、滅失のときには特別受益はないものと考え、価額の増減のときには、その増減した相続開始時の価額を基準として特別受益が算定されることになります。

③評価が問題となる受贈財産

ⅰ.金銭
金銭の贈与を受けた場合につきましては、かつては金銭の価額の変動ということはないので受贈当時の金額で算定すべきであるとする見解多かったようです。

しかし、その後、インフレ、物価上昇を考慮し、その実質的価値を相続開始時の貨幣価値に換算評価すべきあるとする見解が有力が有力になっていたところ、最高裁も後者の考えを採用するに至りました。

最高裁昭和51年3月18日判決は、遺留分算定の基礎となる財産の価額についてではありますが、相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として加算する場合には、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきであるとしました。

これは遺留分の算定の場合に関する判例ですが、具体的相続分を算定する場合につきましても別異に解すべき理由は無く、その後、実務はこれに沿って運用されていると思われます。

ⅱ.農地

農地の評価につきましては、宅地転用の見込みの有無、強弱によって評価に開きがでるため問題となることが多いようです。

最高裁家庭局は、『農地が宅地として確定している場合、あるいはそのような蓋然性が高い場合には、その事情を考慮して算定すべきであるとされています。』


以上、『特別受益⑤』について、ご紹介させていただきました。
     

 寄与分①について・・・(2016.12.24)

本日は、『寄与分①』について、ご紹介させていただきます。

1.寄与分

①意義

寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がある場合に、他の相続人との間の実質的な公平を図るため、その寄与相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度をいいます。

例えば、被相続人に子が2人おり、うち1人は終始被相続人と共同して家業に従事して遺産の維持・増加に多大な貢献をしたのに対して、他の子は早くから親元を離れて生活し財産の維持・増加には何ら貢献していない場合のように、財産の維持・増加に対する実質的な貢献度に明らかな差異があり、法定相続分による均等割合による承継では実質的な均衡を失する場合に、貢献者により多くの財産を取得させ、その間の衡平を図ろうとする制度です。

②実務上の課題

寄与分は当事者間で協議が成立しない場合に家庭裁判所が審判によって定めますが、『寄与分を定める処分にかかる審判は、家庭裁判所が共同相続人間の実質的な衡平を実現するため合目的に裁量権を行使してする形成的処分』であるとされ、遺産分割の審判が裁量的処分であることとともに、実務において注意を要します。寄与分の具体的算定について、基準の明確性、客観性の確保が問題とされ、類型化や、算定基準、計算式の指針が提案されています。


2.寄与分の主体と寄与の範囲

①共同相続人

民法904条の2第1項に『共同相続人中に』と規定されていること、及び寄与分が相続分の修正要素とされていることから、寄与分を主張することのできる者は、現実に遺産分割に参加する共同相続人に限られます。

よって、第1順位の相続人が共同相続人である場合に、第2順位以下の相続人(配偶者と子が共同相続人である場合の直系尊属や兄弟姉妹)に特別の寄与分が存したとしても、それらの者は寄与分の請求をすることはできません。

また共同相続人でも、欠格者、被相続人により廃除された者、相続放棄をした者は、相続資格を失うことになりますから、寄与分を請求することはできません。

②代襲相続人

代襲相続人も、『共同相続人』である以上、寄与分を主張することができます。

ただし、その主張する寄与が代襲者自身のものか、あるいは被代襲者によるものかによって、次のような問題があります。

ⅰ.代襲相続人自らが財産の形成に寄与した場合に、その寄与分を主張することが許されるか。

この点につきましては、寄与者の『共同相続人』という資格を重視する立場からは、代襲原因が生じる以前の寄与行為につきましては代襲相続人に相続人たる資格がなかったことを理由に、寄与分の主張を否定する見解が存します。

しかし、遺産分割時点で相続人であれば資格要件を充たしていると考えられる上、共同相続人間の実質的衡平を図るという寄与分制度の目的を重視すれば、代襲相続の原因の前後で区別する必要はなく、すべての寄与分を主張できるものと解する立場が有力のようです。

ⅱ.被代襲者が財産の形成に寄与した場合に、代襲相続人がその寄与分を主張することが許されるか。

この点も肯定する立場が実務上有力です。理由としましては・・・

イ.代襲相続人が被代襲者の地位を承継し、得べかりし相続分をそのまま取得すべきであること、あるいは代襲者の取得すべかりし相続分は寄与分が一体として含まれていること。

ロ・代襲相続が代襲相続人の不利益を回避し相続人間の衡平を図る制度であるので、肯定した方が相続人間の衡平に適すること。

ハ.肯定しても一身専属制を持たない財産権である寄与分の性質に反しないこと。


等が挙げられています。


以上、『寄与分①』についてを、ご紹介させていただきました。
     

 寄与分②について・・・(2016.12.26)

本日は、『寄与分②』についてを、ご紹介させていただきます。

1.寄与分の主体と寄与の範囲

⑤被相続人の前配偶者

例えば、被相続人の財産の維持、形成に特別の寄与をした先妻が死亡し、被相続人はその後再婚してから死亡した場合の相続において、先妻の子が母の寄与分を主張できるか、という問題です。

これにつきましては、

ⅰ.明文上寄与分が認められるのは、共同相続人に限定されていること、

ⅱ.配偶者の代襲相続が否定されているのに、本件を肯定すれば配偶者に代繡相続を認めたのと同様となってしまうこと、
を理由として、肯定することには解釈上無理があり、否定する見解が多数のようです。

⑥内縁の配偶者

例えば、内縁の妻が夫であった被相続人の財産の維持、形成に対して特別の寄与をしていた場合に、その妻に寄与分を認めることができるかどうか、という問題です。これにつきましては否定する見解が多数と思われます。

理由は、寄与分を認めることは相続権そのものを認めることにはならないけれども、寄与分権者として相続に関与する地位を与えることとなって、実質的には相続権の付与と同様の結果となるからです。

ただし、寄与分の明文新設前の理論を用いたり、あるいは前提に立ち戻って無報酬の労働の対価を不当利得として返還請求するとか、相続財産中に対価相当額の共有持分を認め共有物分割請求をする等の方法によって、実質的に寄与相当額を内縁の妻に留保することが認められる事案もあると思われます。

⑦包括受遺者

包括受遺者が寄与分の主張をすることは認められない、とするのが多数説と思われます。

理由としましては、

ⅰ.反対説の根拠とする民法990条が、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有すると規定するといっても、包括受遺者は相続人と全くイコールなのではなく、相続人と同様に扱われるに過ぎないこと、

ⅱ.寄与分の明文上、寄与者は共同相続人に限定されていること

ⅲ.第三者に対する包括遺贈は寄与の対価としてなされることが多いこと、

・・・等があげられています。

本日は、『寄与分②』について、ご紹介させていただきました。


 寄与分③について・・・(2016.1.27)

本日は、『寄与分③』についてご紹介させて頂きます。

□寄与分を主張するための要件

1.特別の寄与行為

①寄与行為は、主として無償、もしくはこれに準じるものであることが多いようです。

なぜならば、相当の対価を得ているのであれば、すでに決済が済んでいるものとして、寄与分として主張すべき部分は残存していないと考えられる場合が多いからです。

②『特別』な寄与行為でなければなりません。

特別とは、身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献をいうとされます。なぜなら、夫婦間の協力扶助義務、直系血族及び兄弟姉妹の扶養義務、直系血族及び同居の親族の相互扶け合いの義務の範囲内での行為は、寄与分として相続分を修正する事由とは認められないからです。

例えば、妻に寄与分があるというためには、家事労働の他に夫の農業や家業を手伝ったり、共働きだったりする程度のことが必要であり、家庭にあって家政を処理しながら多くの養子を養育し、それによって夫の活動を助けてきたとしても、家事労働者がある場合には、内助の功は多少あるかもしれませんが、それだけでは事業の経営など特段の寄与をしたとは認められないとした事例があります。

また、子に関しましては、8年間被相続人と同居して面倒を見たとしても、直系血族としての扶養義務の履行であることを考慮すれば、この程度では遺産の維持に貢献したとはいえないとした事例があります。

③寄与の種類・・態様としましては、以下の様な区別がなされることが多いようです。

ⅰ.事業重視型

被相続人の営む営業(営業よりも広く同種行為を反復継続する行為を指し、農業・工業・商業の別を問わない)に対し無報酬あるいはそれに近い状態で従事し、労務を提供して、相続財産の維持または増加に寄与するタイプ

被相続人の営む事業とは、個人営業がその典型ですが、被相続人が経営する会社の事業に従事した場合いでも、会社への寄与と被相続人の資産維持との間に明確な関連性が認められれば寄与分は認められる様です。

家事従事型・従業員型・共同経営型の小分類が紹介されていますが・・特別の寄与に当たるか否かは、第三者を雇用した場合の給付との差の有無、イ.従事期間の長短、ロ.専従者が認められるか、ハ.身分関係、.寄与行為時の社会通念や家業の通常の経営形態などの事情が総合的に検討されます。

算定の計算式として、

従業員型について

寄与分類=寄与相続人の受けるべき相続開始時の年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数

共同経営型について

寄与分類=(寄与相続人の受けるべき通常得べかりし報酬+利益配分)―現実に得た給与が紹介されています。

具体的として、被相続人の財産形成に相続人が寄与したことが遺産分割にあたって評価されるのは、寄与の程度が相当に高度な場合でなければならないことから、被相続人の事業に関して労務を提供した場合、提供した労務にある程度見合った賃金や報酬等の対価が支払われたときは、寄与分と認めることができません。

しかし、支払われた賃金や報酬等が提供した労務の対価として到底十分でないときは、報いられていない残余の部分については寄与分として認められる余地があり、また、寄与分が共同相続人間の実質的な衡平を図るための相続分の修正要素であることに照らせば、共同相続人のうちに家業に従事していなかった者と家業に貢献していた者がいる場合にこれを遺産分割に反映させる必要性があるというべきであるとして、寄与分を認めなかった原審判を取り消した事例、農業に従事した被相続人の後継者として代襲相続人とともに農業に従事した母親ないし配偶者の寄与を代襲相続人の寄与として考慮することも許されるとして、寄与分を相続財産額の半額と定めた原審判の裁量判断を肯定した事例、長男とその妻、代襲相続人が被相続人の家業である農業に専従し、固定資産税を負担してきたことから、農地などの遺産の維持に寄与したものと認め、寄与分の承継も認め、寄与分を相続財産の半額と認めた事例等があります。

ⅱ.財産出資型

被相続人やその事業に対して、財産上の給付あるいは財産的な利益を提供して財産を維持・増加させ、あるいは、債務の返済等により被相続人の財産の維持に寄与するタイプ

寄与分を肯定するには.無償性、、相続開始時に出資の結果の残存、.出資全部を寄与分と認めることが相当か否かが検討されます。

算定の計算式として、

不動産取得のための金銭贈与の場合

寄与分類=相続開始時の不動産価額×(寄与相続人の出資金額÷取得時の不動産価額)

不動産の贈与の場合

寄与分類=相続開始時の不動産価額×裁量的割合

不動産の使用貸借の場合

寄与分類=相続開始時の賃料相当額×使用年数×裁量的割合

金銭贈与の場合

寄与分類=贈与当時の金額×貨幣価値変動率×裁量的割合

が紹介されています。

具体例としましては、被相続人が創業した株式会社は被相続人と経済的に密着した関係にあり、同会社の経営状態、被相続人の資産状況、相続人による援助の態様等からみて、相続人の同会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、援助を被相続人に対する寄与と認める余地があり、自転車操業状態で合った同会社に、医師としての信用等によって資金提供を行った相続人に対して資産全体の20パーセントの寄与分が認められた事例等があります。

以上、『寄与分③』について、ご紹介させていただきました。


 寄与分④について・・・(2016.12.28)

Ⅰ.寄与分を主張するための要件

1.特別の寄与行為

(1)寄与の類型・態様

①療養看護型

被相続人の療養看護を行い、医療費や看護費用の支出を避けることによって相続財産の維持に寄与するタイプ。第三者に依頼して療養看護した場合には前記財産給付型の一態様として判断されるが、相続人やその親族が療養看護した場合に問題が深刻です。

ⅰ.療養看護の必要性

ⅱ.身分関係、従事期間、専従性

が検討されます。

一定の計算式として、

■相続人が実際に療養看護した場合

寄与分類=付添婦の日当額×療養看護日数×裁量的割合

■第三者に療養看護させ費用を負担した場合

寄与分類=費用負担額

が紹介されています。

具体例として、

相続人の妻の被相続人に対する療養看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものであり、そのため、被相続人は、療養費の負担を免れ、遺産を維持することができたと考えられるから、遺産の維持に特別の寄与行為があったものと評価するのが相当であるとし、相続人の補助者または代行者として相続人の寄与分として考慮し、貢献期間と通常の扶助を超える部分の評価額から寄与分を算定した事例、

相続人の妻子による被相続人の介助が、相続人の履行補助的立場にある者の無償の寄与行為として、特別の寄与にあたるものと解されるが、同居していることにより生活上の諸利益を得ていたことが推認されるので、寄与分の算定にあたっては、同居の親族として一定程度の相互扶助義務を負っていることも考慮されなければならないとして、社団法人日本臨床看護家政協会作成の看護補助者による看護料金一覧表による普通病の場合の一人当たり基本給を参考に、親族としての相互扶助扶養考慮による減価を0.3として寄与分を算定した事例等があります。

以上、『寄与分④』についてを、ご紹介させていただきました。

     

 相続と保証債務について・・・(2016.12.31)

本日は、相続がおきた時の保証債務の扱いについて、お話させていただきます。

1.通常の保証債務は相続されます。

例えば、友人が銀行から金1000万円を借りるに際し保証人になった場合などのような、1回限りで金額の確定している保証債務は相続されることとなります。

この時、相続人は保証債務には気がつかないことが多いので、次のような相続の承認・放棄の熟慮期間がいつから始まるのかが争われた例があります。

すなわち、相続開始後、3カ月以内に、相続放棄をするか限定承認をするかの手続きをしないと、単純承認といって被相続人の全ての財産と債務を継承しますので、保証人となっていた事に気づかずに3カ月を経過してしまった場合のケースで、最高裁は次の判決を出しています。

相続の承認・放棄の熟慮期間はいつから始まるかが争われた事件で、最高裁は、死んだ親族の財産、借金の有無を調べることが困難な状況にあり、財産、借金がまったくないと信じるに相当な理由があると認められるときには、死亡で法律上の相続人となったときからではなく、財産、借金があることを相続人が知った時から起算すべきだとしています。

本日は、通常の保証債務のお話をさせていただきました。
   

 離婚訴訟中の相続について・・・(2017.1.1)

本日は、『離婚訴訟中の相続』に関してのお話をさせていただきます。

1.離婚訴訟中の妻でも相続はできるか

①死亡時に婚姻関係があれば相続人

民法は『被相続人の配偶者は常に相続人となる』(八九〇条)としています。

ここにいう配偶者とは、法律上有効な婚姻、すなわち、民法七三九条にいう婚姻届をすませた配偶者をさします。

いったん婚姻届を提出すれば、離婚するまでの間は、夫婦仲が悪くても、別居中でも離婚すべく話合いの最中でも、配偶者であり、相続人です。

離婚調停や裁判は、相手方が死亡すると自動的に終了するので、夫死亡後の離婚はありえず、離婚調停中・離婚裁判中の妻も相続人になります。

ですから、配偶者と離婚するつもりで財産を相続させたくない場合、離婚の手続きをはじめると同時に、配偶者以外の者に財産を相続させる旨および配偶者を廃除する旨遺言しておかねばなりません。

また、相続は被相続人の死亡時に開始しますから(民法八八二条)、夫の死亡後に旧性に戻った妻でも、その後再婚した妻でも、夫の相続人です。

②離婚してしまうと相続できない。

逆にいったん離婚届を提出してしまえば、相続人ではありません。

したがって、離婚した前妻は相続できません。

また、最近、夫が借りた金について妻に請求されるのを避けるために、形式的に離婚届を提出するケースがままありますが、この場合も相続人ではなくなります。

もちろん、借金だけを相続しても仕方がありませんが、もし財産があった場合には、真実は離婚する意思のなかったことを理由にしても離婚の無効を認めないのが現在の裁判例ですから、やはり相続できません。

何らかの事情により形式的に離婚する場合には、このことを十分考慮し、遺言する配慮も必要です。

③内縁の妻、内縁の夫には相続権はない。

結婚式を挙げ、親族も近所の人も皆夫婦として認めていても、婚姻届を提出していない内縁の配偶者には相続権はありません。

ただし、相続人が誰もいない場合には、特別縁故者として財産の分与を家庭裁判所に申し立てることにより、財産の全部または一部を受ける途があります。

なお、一連の社会立法においては、遺族給付について、内縁の配偶者を法律上の配偶者と区別せずに、受給資格を与えて保護しています(労働基準法七九条・同施行規則四二条、船員法九三条・同施行規則六三条、船員保険法一条、厚生年金保険法三条二項、国家公務員等共済組合法二条一項、国家公務員災害補償法一六条一項、地方公務員等共済組合法二条一項・地方公務員災害補償法三二条等。)

これらの内縁配偶者などに財産を承継させるには、その旨遺言しておかねばなりません。

しかし、内縁配偶者については、結婚の実態があるのですから、婚姻届は形式だけだなどと考えずに、婚姻届を提出しておくことが、万一の場合のトラブルを解消する最後の方法です。

以上、『離婚訴訟中の相続』について、お話させていただきました。


 遺言のすすめについて・・・(2017.1.2)

本日は、『遺言のすすめ・・・』をお話させていただきます。

遺言を遺すことを考えると、うちの家族はいさかいをするはずないとか、臨終のことを連想するので気分が悪いという人はかなり多いようです。

相続というのは法定相続のことだと思い込んでいる人がほとんどなのかもしれません。

しかし、日本でも江戸時代までの庶民法(町人百姓に対する法)では、遺言相続が原則であり、法定相続は、被相続人が『頓死』したり『不慮の死』にあったりしたときに適用されるままったくの例外だったようです。

善良なる家父は生前に遺産の帰属を確定するのが通例であり、それが家父の責任だったともいわれてます。

民法の法定相続は、一般的に一応誰にでも合うように作られた、いわばレディメイドの服のようです。

これは遺言がないときに、何の決まりがなくても困るということで決められたもので、体に合わないといって不服をいう方がおかしいものなのです。

本来は、体にぴったり合ったオーダーメイドの服である遺言を作るべきなのかもしれません。

すなわち、遺言によって、はじめて、各人の実情に合った財産の処分ができるのです。

そこで、民法は、遺言に法定相続分に優先する効力を与えることとなっています。

きちんとした遺言書を作って遺しておきさえすれば、相続紛争は防げたと思われるケースが少なくありません。

多くの相続人は、被相続人の遺志を尊重する気持ちをもっていますから、遺言によって紛争を未然に防止することができることとなるのです。

この意味で、現代の我々にとっても、遺言を遺しておくことは、次の世代に財産を遺す者の債務といえます。

遺言は死に直面してなすものと思い込んでいる人が数多くいるようですが、これは正しくありません。

死に直面してからでは、適法な遺言を遺すことがむずかしくなりますし、また、冷静な判断ができなくなるリスクもあります。

遺言は何回でも変更可能ですから、元気なうちに遺言を遺しておくことをおすすめします。

遺言は満十五歳以上の人であれば、いつでも自由にできます(民法九一六条)。

精神障害等によって普段は正常な判断能力がない人であっても、正常な判断能力に戻っているときに遺言を遺すことはできます。

遺言の能力は遺言を遺すときに必要とされているのです(民法九六三条)。

成年後見人が遺言をする場合には、正常な状態に戻っていることを証明する医師二人以上の立会いが必要となります(民法九七三条)。

以上、『遺言のすすめ・・・』についてお話させていただきました。

    

 どういう場合に遺言が必要ですか・・・(2017.1.3)

 本日は、『どういう場合に遺言が必要ですか』についてお話させていただきます、

相続をめぐるお話を受けたとき、『遺言さえあれば争いは生じなかったのに』とか『遺言さえあればこのように不当な結果にならなかったのに』と感じることは、多々、あることです。

遺言は誰もが遺しておくことが望ましいのですが、とりわけ遺言を必要とされる方は次のような方でしょう。

◇法律で定められている相続人に遺産を分けてやりたくないケース

親不幸で浪費癖のある子どもや、離婚訴訟中の配偶者、離縁訴訟中の養子などには財産をやりたくないと思っても、遺言なしに死亡すると、これらの人も当然に相続してしまいます。そこで遺言で他の人に相続させる必要があります。

◇子どものいない夫婦や内縁の夫婦のケース

法定相続では、子供のいない夫婦の場合、どちらかが死亡すると相続人は配偶者と被相続人の親または兄弟姉妹になります。

しかし遺言さえしておけば、自分の配偶者にすべて相続させることができます。

特に相続人が兄弟姉妹の場合には、遺留分もないので、一切口出しをさせずにすみます。

また実質は夫婦として生活してきながら、婚姻届を出していないいわゆる内縁関係の場合、内縁配偶者に相続させたければ遺言をしておかなければなりません。

そうでないと、他に相続人がいる場合、内縁配偶者は何も相続できないことになります。

◇法律で定められている相続人以外の人に遺産を分けてやりたいケース

親と同居している長男夫婦で長男が早くに亡くなり、その後、嫁が家事や親の面倒をずっとみてきたとしても、その嫁には相続権がありません。

相続権は、血縁関係にあるものが対象となるからです。

そこで、嫁の面倒になった分、嫁に財産分けをするときは、遺産の一部を嫁に与える遺言を遺しておく必要があります。

また、相続人がいない場合は、特別な事情があれば別ですが、最後には国庫に帰属することとなります。

その場合は、親しい人や、生前にお世話になった人、又は、出身学校やお寺や施設にあげたい場合は、その旨を遺言しておく必要があります。

◇家業の後継ぎにまとまった財産を相続させたいケース

農業や商売をされている方は、個人の財産を基礎に事業を行っている場合が大多数ですから、相続によってその個人の財産が分割されてしまっては、その事業は立ち行かなくなります。

そこで、まとまった財産を後継者に相続させる遺言をしておくことが必要になります。

◇相続人となるべき人の間に不和があるか、不和が生じる予感のある人

『兄弟は他人のはじまり』ともいわれるように、今、仲のいい子どもたちも親の死後もそうであるという保証はありません。

子どもら自身は仲良くても子どもらの配偶者(妻または夫)の方からいろいろと相続人である子どもらに対し意見や注文が出され、円満に遺産分けができなくなることがよくあります。

また、先妻の子と後妻の子があるときなどはしばしば紛争がおきます。

遺言によって遺産分割の方法などを明確に指定しておけば、このような紛争を防止することができます。

◇遺言者の死後、独力で生活していくのに不安のある人がいるケース

たとえば、子どものいない妻や心身障害のある子の場合などは、遺言より妻や心身障害のある子に可能な限り遺産を相続させ、生活の安定をはかってあげることができます。

以上、『どんな場合に遺言が必要ですか』についてお話させていただきました。


 どのようなことを遺言できますかについて・・・

本日は、『どうのようなことを遺言できますか』についてお話させていただきます。

◇法的な効力の生ずる遺言事項は法律で決められている

遺言ですることのできる行為として法が定めているものは次の一二種類です。これ以外のことを遺言しても法律上の効力は認められません。

1 身分に関する事項

①認知

②後見人の指定(民法839条)および後見監督人の指定(民法848条)

自分が死亡すれば親権者がなくなる未成年の子が有る場合に、その子の親代わりとなる者、およびその者を監督するものを指定すること。

2 相続に関する事項

③相続人の廃除および廃除の取り消し

④相続分の指定または指定の委託

⑤遺産分割方法の指定または指定の委託

⑥遺産分割の禁止(民法908条)

これによって相続開始後5年間まで遺産の分割を禁止することが可能となります。

⑦相続人間の担保責任の指定(民法914条)

⑧遺贈の減殺方法の指定(民法1034条)

遺言執行者の指定または指定の委託

3 財産処分に関する事項

⑩遺贈

⑪一般財団法人の定款の作成(一般社団・一般財団法152条2項)

⑫遺言信託(信託法3条2号)

以上のうち①、③、⑩、⑪、⑫は生前行為もできますが(遺贈は生前なら贈与となり少し扱いが違います)、それ以外は遺言でしかできません。

以上、『どのようなことを遺言できますか』についてお話させていただきました。

     

 遺言の内容について・・・(2016.1.5)

本日は、『遺言の内容』について、お話させていただきます。

1 相続分の指定・・・長男や妻に多くを遺す方法

相続分指定とは、遺言で法定相続分を変更することをいいます。

これは遺言でしかすることはできません。

相続人の一人または全員について、割合で指定するのが通常で、妻に全財産を相続させるなどというのも、本来相続分の指定ですが、判例は遺産分割を待たずに権利移転するという強い効果を認めています。

相続人のうちの一部の者の相続分だけを指定したときは、他の相続人の相続分は法定相続分によることになります。

たとえば子A、B、Cがあるとき『Cに二分の一を相続させる』という指定をすると、残り二分の一を、子A、Bが均等に分けることになります。

この場合妻がいたとすると複雑になります。

妻の相続分は子と独立だという考え方があるため、妻が二分の一(残り全部)をとって、子A、Bはゼロだとされる可能性があるのです。

このようなことまで考えて遺言しているとも思えず、争いになる可能性があります。

このような混乱を避けるためには、全員について指定することが無難な方法といえます。

相続分の指定は第三者に委託することもできます。

なお、相続分の指定が他の相続人の遺留分を侵害するときは、遺留分減殺請求を受けることがあります。

2 遺産分割方法の指定⇒分割のトラブル防止策

◇何をあげるかを具体的に指定する。

遺産分割方法の指定とは、土地・建物は妻に、預貯金と株券は長男に、預貯金の一部は長女というように、財産分配の方法を定めるものです。

遺産の全部について指定することもできますし、一部だけを指定することもできます。

全部について分割方法を指定しておけば、遺産分割をめぐる相続人のトラブルは未然に防げることになりますので、分割のトラブル防止方法としてお奨めです。

なお、上記の例で、長男の取得する預貯金と株の価額が、長男の法定相続分を上まっている場合には、相続分の指定(法定相続分の変更)の内容を抱合することとなります。

法定相続分は遺言で事由に変えることができますので、このような指定は有効となります。

ただし、他の相続人の遺留分(原則は法定相続分の2分の1、その他例外あり)を侵害してしまう場合は、遺留分減殺請求を受けることがありあます。

遺産分割方法の指定は、遺言により第三者に依頼することもできます。

分割方法の指定だけを依頼すると、その依頼を受けた人は、法定相続分に従って分割方法を定めることとなります。

なお、土地・建物を共有とする遺言も可能です。

一筆の土地を2人以上の相続人に与える場合には、予め分筆をしておき、各人に一筆づつ指定するのが争いを避けるためによい方法です。

建物の敷地に供されていて、分割出来ない土地は、共有にすることもできます。

ただし、後々、相続を重ねるごとに共有者が膨大に増えてしまい、売ることも貸すことも共有者全員の意見がまとまらずに塩漬け状態の不動産となってしまうリスクがありますので注意が必要です。

以上、遺言の内容について、お話させていただきました。


 遺言の内容②について

本日は、『遺言の内容2』について、引き続き、お話させていただきます。

1 相続人の廃除、認知

【廃除】

相続人の廃除とは、配偶者や子などの推定相続人が、被相続人に対し虐待や重大な侮辱をしたり、著しい非行をしたりする場合に、相続権を剥奪することです。

廃除は遺言しただけで効力が生ずるのではなく、家庭裁判所の審判ではじめて決まります。

そこで、廃除の遺言をする場合は、必ず遺言執行者を指定しておきます。遺言執行者は、遺言者死亡後遅滞なく家庭裁判所に廃除の審判の申し立てをしなければなりません。

審判時には遺言者はいませんので、廃除の理由についての証拠は生前に保存しておかなければなりません。

【認知】

認知とは、父親が、妻以外の人との間にもうけた子(胎児も含む)を自分の子として認めることで、戸籍上の届出によって行います。

遺言によっては認知する場合は、遺言者の死亡によって効力を生じますが、遺言執行者が戸籍上の届出をしなければなりません。

認知された子は、子として父親の相続人となります。

妻に言えない隠し子を遺言で認知するというのは、被嫡出子の人権からみれば、認知しないよりましともいえますが、妻や嫡出の子たちにとっては、予期しない相続人が突然あらわれることになるのでトラブルになる可能性が大きいことです。

認知の届出を相続人に任せずに、遺言執行者を選任して、その者にさせることにしているのはそのためですから、遺言の際必ず遺言執行者を指定しておきましょう。


本日は、『遺言の内容2』について、お話させていただきました。

 

遺言の方式について・・・ (2017・17)

本日は、『遺言の方式』について、お話させていただきます。

1.遺言は法定の方式に従わねばなりません。

遺言は相続人らの権利関係に大きな影響を与えるものですから、遺言者の真意が明瞭にされている必要があります。

しかも遺言の内容が問題となるのは遺言者の死後ですから、ホ人に確かめることもできません。

そこで民法は遺言者の真意を明確にして残しておくために、『遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることができない』として、次のとおりの厳格な方式に従うことを要求しています。

このいずれも適合しない遺言は法的な効力が生じません。

『お父さんは生前、「箱根の別荘はおまえにやるつもりだ」といっていた』などというのは法的な遺言にはあたりません。

2.遺言の方式

遺言の方式には大きく分けてⅠ普通方式とⅡ特別方式とに分かれます。

Ⅰ普通方式はさらに、①自筆証書遺言方式、②公正証書遺言方式、③秘密証書遺言に分かれます。

①自筆証書遺言とは、遺言者が遺言全文、日付、氏名を自署し、印を押す方式です。

②公正証書遺言とは、公証人が作成する方式です。遺言者が外国にいる場合は、日本国領事が公証人の職務を行い、作成します。

③秘密証書遺言とは、遺言者が遺言書に署名し印を押し(遺言者の署名以外の部分は、自書でなくてもよく、他人に書いてもらっても、ワープロで打ってもかまいません)、その遺言書を封入して遺言書に押した印と同じ印で封印したうえ、証人二人の立会いのうえ公証人に提出して、それが自分の遺言書であること、自筆でないときは、遺言の内容を書いた者の氏名と住所を公証人に申述して行う方式です。実際にはほとんど用いられていないのが現状です。

Ⅱ特別方式は遺言者が重病で死亡が迫っているときとか、伝染病などで一般社会と隔絶した場所にいるとかの理由で普通の方式ができない場合に認められる簡便な方式です。

実際に問題となるのは死亡危急時遺言(臨終遺言)ですが、死亡危急死遺言とは、次の様な遺言となります。

①危急時遺言

病気などのため客観的に死亡が危急に迫った場合、口頭で遺言することが認められています。

この場合は、①証人3人以上の立会いのもとで、②その1人に遺言の趣旨を口頭で述べ、③その証人がこれを筆記し、④遺言者と他の証人に読み聞かせ、⑤各証人が筆記の正確なことを承認した後署名押印します。

遺言者は署名も押印もいりません。

この方式によった場合には、遺言の日から二〇日以内に家庭裁判所の確認をえなければ効力を生じません。

また、証人についても条件があり、一定の人は証人になれません。

緊急事態ですから証人の印は拇印でかまいません。

3.方式を守っていない由比銀の効力

以上の方式に従わない遺言は、法律上の効力が認められません。

日付の記載のない自筆証書遺言や、テープによる遺言、臨終の際に相続人だけに口頭で述べたことなどは、いずれも法律上無効です。

そのようなものは、偽造・変造のおそれがあったり歪曲して伝えられる危険が有ったりするので、強い効力を持たせることが出来なくなります。

しかし、相続人が死者の意思を尊重することは何ら差し支えありませんから、方式を守っていない遺言であっても、それが遺言者の意思と認められる以上は、それによって遺産分割の協議をすることができます。

以上、『遺言の方式』についてお話させていただきました。


 遺言の方式②について・・・(2017.1.8)

本日も遺言の形式についてお話させていただきます。

1 公正証書遺言が安心

通常、遺言をしようとする場合には、自筆証書、公正証書、秘密証書の三つの方式があります。

自筆証書遺言は、証人の必要がなく、1人でいつでも自由に作れ、費用もいらないという利点があります。

反面、書き方をよく知らないために形式が不備となり、法律上の効力が生じないことがあります。

また、せっかく作った遺言書が紛失したり発見されなかったり隠匿されたり、誰かに変造される危険性もあります。

本当に本人が書いたのか(偽造ではないか)というトラブルがおきることもあります。

自筆証書遺言はすべて自分で書かねばなりませんので、字の書けない人は公正証書遺言によらざるをえません。

秘密証書遺言は、誰にも内容を知れずに遺言書を作れる点が長所です。

しかし、この遺言書は、公証役場に保存されるものではないので、紛失したり、誰かにもちだされたり、破り捨てられる危険があります。

公正証書遺言には、次のような利点があります。

①遺言書の原本は遺言の時から二〇年間(さらに遺言者が一〇〇歳に達するまで)公証役場に保存されますので、遺言書の紛失、盗難、偽造、変造という心配がありません。

②公証人は、この道の専門家ですから、方式が不備な遺言とか趣旨が不明な遺言を作ることは、まず考えられませんので、遺言の方式や内容をめぐって後日トラブルを生じる余地は少ないと考えられます。

③公正証書遺言は、自筆証書遺言などのように、遺言者死亡後に相続人らが家庭裁判所へ行って検認手続をとる必要もありません。

④公正証書遺言は、遺言の内容を遺言者がこ口授(口頭で述べること)し、公証人が筆記して作るものですから、字の書けない人でも遺言することができます。

⑤また口が不自由な人の場合は、通訳人の通訳か自署により、口授に代えることができます。耳が聞こえない人の場合も、公証人が筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者に伝えることで、読み聞かせに代えることができます。

反して公正証書遺言には、次のような短所があります。

①遺言の際に証人の立会が必要ですので、遺言の内容を証人には知れてしまいます。

誰にも内容を知れずに遺言をしたいという人は秘密証書遺言によるのが適当です。

②たいした負担ではないものの、若干の手間と費用がかかかります。

③ひんぱんに書き換える人は、自筆証書遺言がむいていると思われます。

以上のことを考えますと、公正証書遺言が、短所はあるものの総合的には安心感の高い遺言と思います。

以上、『遺言の方式②』について、お話させていただきました。

     

 自筆証書遺言について・・・(2017・1・9)

本日は、遺言の方式のうち、『自筆証書遺言』について、お話させていただきます。

1 自筆証書遺言の作成について

必ず自分で書くことが必要です。

自筆証書遺言は、遺言者が、遺言の全文、遺言書の作成日付、氏名等を自分で手書きし、押印して作成します。つまり、全部を自分で書くことが必要となります。

自筆証書遺言では、遺言者の真意を確保するべく、偽造・変造を防ぐため、自書を求めています。

すなわち、パソコン・ワープロで作成した遺言書は、遺言者自身が作ったものであることを証明しても自筆証書遺言とは認められないこととなります。

また、手が震えるなどして思うように書けない人は、手を支えてもらって自書を援助してもらうことはかまいませせん。

ただし、手を支えている人が作為的に遺言者の真意とは異なる言葉を記載する危険性もあることから、過去の最高裁の判決では、手を支えていた人の意思が介入した形跡のないことを、筆跡の上で判定できた場合に限って自書といえることとしています。

のちのちのトラブルの危険性を考えると、十分に字を書けない人には公正証書遺言の作成をおすすめします。

2 書式、用紙、筆記用具の注意点

書式については法に定められた特別な書き方というものはありません。

重要なことは、遺言であるということをはっきりさせることにありますので、標題には『遺言書』と書くことが大事です。

用紙は、便箋でも、半紙でも、原稿用紙や罫紙でも、文字は書けるものであれば何でもOKです。

極論、ノートや日記などに記載してもOKですが、単なる下書きや覚え書きではないかとの疑問をもたれる恐れがありますので、遺言書としての本質性を疑われる可能性があることから、お奨めはできないと言われています。

また、遺言の内容を記載した用紙が数枚になるときは、ホチキスやのりづけ等でとじたうえで割印を押印しておくとよろしいでしょう。

筆記用具は、筆、ボールペン、万年筆など、特に定められたものはなく、全くの自由となります。

ただし、鉛筆は消えてしまうことがありますので、避けた方がよろしいでしょう。

3 日付の注意点

遺言書には、年、月、日を必ず、自署で記載してください。日付印を打ったものは遺言書全体が無効となります。

日付は、西暦でも元号でもどちらでもかまいません。

日付の記載それ自体から客観的に遺言をした年月日が特定できればよく、遺言者の『喜寿の日』とか『70歳の誕生日』とかの記載のしかたでも有効となります。

しかし『○年○月吉日』のような書き方は、吉日は客観的なものではなく、また同じ日でも複数あることから無効とされます。

わざわざ、紛らわしい遺言の記載をすることもないので、喜寿の日と書いた場合でも、さらに年月日をきちんと書いておいた方が、無難でしょう。

本日は、『自筆証書遺言』についてお話させていただきました。

     

 自筆証書遺言②について・・・(2017.1.10)

本日は、『自筆証書遺言』の続きについてお話させていただきます。

1 氏名についての注意点

自分の氏名も必ず自署する必要があります。自署ではなく記名印を押した場合の遺言は無効となります。

氏名は、戸籍上の氏名を記載することとなります。しかし、全く、一字一句同じでなくても問題ありません。

たとえば、『廣』を『広』と書いても有効となります。

また、同一性が分かれば名前だけでも、例えば、『父達也』でも無効とはなりませんが、きちんと『荒木達也』と性も書いてください。

遺言者本人の同一性が十分わかれば通称・芸名・雅号でもよいのですが、遺言者の効力が生じるのは

遺言者の死亡後となりますので、雅号・芸名を書く場合でも、雅号・芸名と併せて遺言者の本名を遺言書の中に記載し明らかにしておいた方がよろしいでしょう。

2 自筆証書遺言の印について

印鑑登録をした実印に拘りません。

三文判でOKです。

さらには拇印(指印)でもかまいません。(最高裁平成元年二月一六日判決)

しかし、三文判は誰でも手に入れてしまえることから、偽造した遺言書と疑われ紛争に発展する危険があること、また拇印は不鮮明であることからホ人の拇印であるのか否かを判断するのが困難であることから、おすすめできません。

そのことから、やはり、実印か銀行取引用の印を押印することがよろしいでしょう。

3 封筒について

遺言書を作成して封筒に封入し封印することは必要要件とはなっておりません。

ただし、簡単に人に見られないように封印される方が大多数です。

また、封印しておけば、遺言者死亡後に遺言書を発見した場合、相続人が家庭裁判所に遺言書を持参し、開封する手続き(検認)をとることとなります。

4 自筆証書遺言の訂正方法

自筆証書遺言(秘密証書遺言も同様)の場合、遺言書の字句の加除訂正するにも一定の決まった方法によらねばなりません。

加除訂正するには、必ず、

①変更した箇所に印を押したうえ、

②その場所を指示して変更したことを付記し、

③付記したあとの署名をします。印を押すだけでなく署名が必要とされる点に注意が必要です。

いずれにしても、訂正は面倒であることと汚くなるので、全文を新しく書き直す方がよろしいかと思います。

ただし、判例では、明白な誤記の訂正の場合は、訂正要件に反する部分があったとしても遺言は無効にならないとしたケースがあります。

とはいえ、のちのちに面倒なことが起きないように、まず下書きしてをしてから十分に検討のうえ、清書することをおすすめします。

以上、自筆証書遺言の訂正についての注意点についてお話させていただきました。


 遺言書の書き方のポイントについて・・・(2017・1・11)

本日は、『遺言の書き方のポイント』について、お話させていただきます。

遺言を遺す際の一番のポイントは、何を、誰に、相続させる(遺贈する)のかを明確にさせることです。

相手が法定相続人なら『相続させる』、法定相続人以外なら『遺贈する』と記載します。

1 相続させる物を明確に特定して記載する

相続させる対象物がどのようなものであるかが、遺言者や相続人の当事者間で十分に分かってもいても、第三者が分からないと、相続による名義変更がスムーズになされないことが起こりえます。

土地、建物などでは、遺言書に地番、家屋番号等が明確に記載されていれば、遺言執行者と当該の相続人・受贈者だけで登記をすることができます。

しかし、たとえば

一、自宅の家屋敷は長男丙に相続させる

二、軽井沢の別荘は妻乙に相続させる

という遺言書では、物件の表示が遺言書上、抽象的でありあきらかでないので、これだけでは登記を長男丙、妻乙に移転させることはできません。

せっかく、遺言書を作成するのであれば、多少の手間はかかっても、土地、建物の登記簿謄本(登記事項証明書)を取り寄せて、登記簿通りに不動産の所在、地番(家屋にあっては家屋番号)、地目(家屋にあっては建物の種類・構造)、地積(家屋にあっては床面積)を記載すべきでしょう。

2 相続人を特定して記載する

たとえば、戸籍上の長男が生後間もなく死亡したような場合は、戸籍上は二男でも世間では長男として認識されている場合があります。

ここで『長男に○○を相続させる』と遺言した場合は問題が起きてしまうこととなります。

相続させる人には、遺言者との続柄の他、氏名や生年月日も記載して特定しておくほうがよろしいでしょう。


本日は、『遺言の書き方のポイント』についてお話させていただきました。


 公正証書遺言の書き方の注意点について・・・(2017.1.12)

本日は、『公正証書遺言の書き方の注意点』についてお話させていただきます。

1 公正証書遺言の手続きは次の通りとなります。

①証人二人以上で立ち会いをし、遺言者が口頭で遺言の内容を口頭で述べることとなります。(法律上は口授と呼んでいます。)

公証人はこれを筆記して、筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせます。

②遺言者と証人は筆記が正確であることを確認したら、署名と捺印をします。

遺言者が署名できないときは、公証人がその事由を付記して署名にかえることができます。

また、遺言者の印は原則として実印であることが必要ですが、証人は認印でOKです。

③最後に、公証人が署名と押印をします。

なお、口が不自由な場合には、通訳人の通訳か辞書により、口授に代えることができます。

耳が聞こえない人の場合も、公証人が筆記した内容を通訳人の通訳により伝えることで、読み聞かせに代えることができます。

以上、公正証書遺言の書き方の注意点についてお話させて頂きました。


 公正証書遺言の作成の準備について・・・(2017.1・13)

本日は、公正証書遺言の作成の準備についてお話させていただきます。

公正証書遺言の作成には、次の様な準備が必要となってきます。

1 証人の用意

最初に、証人二人を用意することが必要となります。

この証人は誰でもいいというわけではありません。

証人は、遺言者が、正常な精神状態で、遺言を公証人に口頭で述べたことを確認し、公証人の事務を監督する役割を負うことから、『未成年者』や遺言者の『推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系尊属』(例、夫、妻、息子、娘、嫁、婿、孫など)、『公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人』は証人にはなれないこととなります。

この証人になれない人を証人として作られた遺言は、無効となります。

証人は、遺言の内容を知ってしまいますので、信用のおける人、秘密を守れる人がよろしいでしょう。

菩提寺の僧侶、友人などの他、弁護士に証人となってもらうこともできます。

弁護士に依頼すればもう一人の証人も用意してもらえます。

証人には認印を準備してもらいます。


2 実印と印鑑証明書

本人の印鑑証明書と実印が必要となります。

公証人に遺言の内容を口頭で述べる人が遺言者本人であることを証明するために必要となります。

実印の登録をしていなかったとか、または、印鑑証明書等を取り寄せる時間のないときは、運転免許書やパスポート、外国人登録証明書などの官公署発行の写真入り証明書(企業などが発行する身分証明書は本人を証するものとしては不適格となります。)と認印を持参することになります。

3 その他用意しておきたいもの

相続財産に不動産がある場合は、登記簿謄本か登記済証(権利証)を持参します。

相続や遺贈により不動産の所有名義を換える際に、遺言書は所有権移転登記のために必要な書類となるので、土地、建物の表示が正確に記載されている必要があります。

あわせて、作成手数料算出の参考とするため、固定資産税の評価証明書もとっておくとよろしいでしょう。

遺言を正確にするために、遺言者および遺言により遺産を取得させる人の戸籍謄本なども用意するとよろしいでしょう。

以上の書類は、できれば、予め公証人に渡しておくとことをおすすめします。


以上、『公正証書遺言作成の準備』についてお話させていただきました。


遺言の撤回と変更について・・・(2017.1.14) 

今日は、『遺言の撤回と変更』について、お話させていただきます。

1 遺言者は以前の遺言を自由に撤回・変更することができます。

民法では、『遺言者は、何時でも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を取り消すことができる。』(民1022上)と規定して、遺言撤回自由の原則を認めています。

遺言はもともと、遺言者の最終の意思を尊重し、それに効力を認めようとする制度ですから、遺言者が一度遺言をしてもその後死亡するまでの間に意思を自由に変えることができ、かつ法律がこれを保障するのは当然のこととなります。

したがって、遺言者は、何の原因がなくても、誰の同意も必要とせずに、全部でも一部でも前の遺言を撤回、変更することができることとなります。

また、遺言を撤回する権利を放棄するなどということもできないこととなります(民1026条)。

たとえば、『この遺言は今後絶対に変更しない』などと遺言書に書いてあったとしても無意味となります。

遺言の撤回は、有効な方式に従った遺言により行います。『○年○月○日付遺言書による遺言の全部(または××の部分)を撤回する。』と遺言すればよいこととなります。

有効な方式による遺言でさえあれば、その方式の種類は問われないこととなります。

前の公正証書遺言を後の自筆証書遺言で撤回することもできます。

なお、混乱を避けるためには、前の遺言書を破り棄てておくのがよろしいでしょう。

本日は、『遺言の撤回と変更』について、お話させていただきました。


 遺言で撤回を明示しなくても撤回したとみなされる場合(2017.1.15)

本日は、『遺言で撤回を明示しなくても、撤回したとみなされる場合』について、お話させていただきます。

1 遺言で撤回を明示しなくても、撤回したとみなされる場合

遺言の撤回は、遺言の方式(前回のお話の内容)によることとされていますが、民法は次の四つの場合には、撤回の遺言がなくても遺言の撤回があったものとして扱うこととされています。

①後の遺言で前の遺言内容に抵触する遺言をしたとき(民法1023条1項)

②遺言をした後にその遺言内容に抵触する法律行為をしたとき(民法1023条2項)

③遺言者が故意に遺言書を破棄したとき(民法1024条前段)

④遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したとき(民法1024条後段)

民法がこのような規定を定めたのには、こうした事実があれば遺言者には撤回の意思があると認められることから、このように扱うことこそが遺言者の最終意思にかなうと考えられることによるからです。

4つの要件の詳細については、次の通りとなります。、

①前の遺言内容に抵触する遺言

前の遺言ではある土地を甲に遺言するとしていたのに、後の遺言ではその同じ土地を乙に遺贈すると遺言するように、前の遺言を執行させなければ実現できないような内容の遺言をした場合には、その内容の抵触する部分について、前の遺言のその部分の撤回があったとして扱われることとなります。

後の遺言は有効なものであれば、その方式の種類は問われません。

二つの遺言のずれが前か後かは、その日付の前後により判断されることとなります。

自筆証書遺言で正確な年月日の記載が要求されるのは、このためとなります。

②遺言内容に抵触する法律行為

前の遺言で甲に遺贈するとしていた土地を、遺言者が後に売却してしまったというような場合がその典型例となります。

なお、この遺言に抵触する法律行為とは上記の典型例のような、後の遺言者の法律行為により遺言内容の実現が不可能となるだけでなく、後の遺言者の行為が前の遺言と両立させない趣旨でされたことがいろいろの事情からみてあきらかな場合をも含むものとされています。

たとえば、1500万円の遺贈する旨の遺言をした後で、遺言者がこの遺贈にかえて1000万円を受贈者に生前贈与し、受遺者もそれ以外に請求しないと約束した場合などは遺言の撤回があったものと認められるとした判例があります。(大審院昭和18年3月19日)

また、終生扶養を受けることを前提として養子縁組をし、大半の不動産を遺贈する旨の遺言をしたけれども、後にその養子と不仲になり協議離婚をしたというケースでも、遺言の撤回があったと認められているケースがあります。

なお、撤回があったとみなされるのは、①と同様に、その抵触する部分だけとなります。

③遺言者の放棄

遺言者自身が遺言書であることを知りながらわざと遺言書を破棄する場合は、その破棄された部分につき撤回があったものとみなされます。

この場合の『破棄』とは、破り捨て、焼き捨て、一部切断などのほか、遺言者のもとの文字が判読できない程度にぬりつぶすような行為も含まれることとなります。

もとの文字が判読できるような末梢ですと、『破棄』でなく、『変更ないし訂正』ということになり、一定の形式を備えないと元の文字の方が効力を持つこととなります。

公正証書遺言の場合は、その原本が公証役場に保存されてますので、遺言者が手元にある生本を破棄しても遺言の撤回と認められない可能性はあります。

正本の破棄とあわせて、新たな遺言書を遺された方がよろしいでしょう。

④遺贈の目的物の破棄

遺言者自身が遺贈の目的物を破棄したとき(例:遺贈の目的たる建物を取り壊した時)は、その破棄した部分につき遺贈が撤回されたものとみなされます。

以上、『遺言で撤回を明示しなくても、撤回したとみなされる場合』について、お話させていただきました。

   

 遺言書の無効及び虚像、脅迫詐欺による遺言について(2017.1.16)

本日は、『遺言書の無効及び虚像、脅迫詐欺による遺言』について、お話させて頂きます。

1 遺言の無効

遺言は重大な法律行為となりますから、遺言者が遺言の時に自分の行為の意味を理解できるだけの能力を備えた上で、かつ本人の自由な意思に基づいてなされたものでなければなりません。

したがって、遺言の当時遺言者が錯乱していて遺言をする能力を欠いていたといった場合は、その遺言は無効であって、遺言としての効力をまったくもたないこととなります

本日は、『偽造の遺言、脅迫・詐欺による遺言』について、お話させていただきます。

1 偽造の遺言

偽造の遺言書などは、もともとは、本人の遺言ではないわけですから、効力を生ずることはありません。

その遺言により財産の遺贈をうけたと称する人が財産を要求してきたりしたときは、相続人はその遺言の無効を主張して争えばよいわけです。

また、相続人および利害関係人の側から、その遺言を有効だと主張する人を相手に遺言無効確認の訴えを起して裁判所にその無効を確認してもらうこともできます。

2 脅迫・詐欺による遺言

脅迫・詐欺による場合は、遺言者がその後も生存していることも多いこととなります。

遺言者は、この脅迫もしくは騙されてなした遺言をいつでも取り消すことができることとなりますし、また取り消さずに新しく遺言を行うことによってこの遺言を撤回する方法もあります。

要は、取り消しは、その意思表示が一般人に分かるようにしおけばいいわけですから、特別に方式は決まっていません。

遺言者が取消しも撤回もしないで死亡したときは、遺言者の相続人がその取消権を相続しますから、相続人が遺言の取消しをすることができます。

取消しをしたうえで遺言無効確認の訴えを起こすことも可能です。

なお、遺言の取消しには、共同相続人が何人かいれば、その相続分が過半数以上になるだけの相続人の決議を得ることが必要です。

3 詐欺・脅迫・偽造者の欠格

詐欺または強迫によって遺言させたり、遺言書を偽造・変造したりした者は、欠格者として相続人になることも遺贈を受けることもできないこととなります。

つまりは、遺言の取消しを相談する際にも、こうした人達は相続人として扱う必要はないこととなります。

以上、『偽造の遺言、脅迫・詐欺による遺言』について、お話させていただきました。

     

遺言書の保管について(2017.1.17)

本日は、『遺言の保管』について、お話させていただきます。

1 遺言の意思表示をしても遺言書が見つからなければ遺言の効力は生じない。

遺言は、遺言者の意思が、しっかりと、かつ、正確に相続人等に伝えられるように、必ず書面で、しかも民法の定める方式に従った書面によってなされることが要求されているわけです。

しかし、遺言者が生前にせっかく方式に従った遺言を遺したとしても、その遺言書が見つからなければ遺言は、当然、何の効果も発揮せず、遺産分割協議によることとなります。

2 遺言書は安全で分かりやすい場所に保管

1のような危険があることから、遺言書は、他の書類と紛れたり紛失したりしない場所で、しかも遺言者が亡くなった後でも相続人達がすぐわかるような、しかし隠匿されたり書き換えられたりする心配のない安全な場所に保管しておくことが大事です。

ただし、あまり難しいところにしまってしまいますと、相続人達が発見できないおそれもありますし、発見されても死後何年もたっていて遺産分割も済んでしまっていては法律関係が複雑になり厄介なこととなります。

この点、公正証書遺言による遺言であれば安心です。

公正証書はその原本が公証役場に保管されて安全ですから、相続人たちにどこの公証役場に遺言書があるということを明らかにしておけばよろしいわけです。

なお、遺言者以外の者が、遺言者の生前に遺言公正証書の閲覧を請求しても、公証人はこの請求には応じませんから、秘密の点からも安心です。

以上、『遺言書の保管』について、お話させていただきました。


 遺言書を他人にあずかってもらう場合・・・(2017.1.18)

本日は、『遺言書を他人に預かってもらう場合』について、お話させていただきます。

1 遺言書を他人に預かってもらう場合には、利害関係の無い公正な第三者に頼みましょう。

遺言書を遺言者自身が保管せずに、配偶者やその他の相続人、友人などに預けておくことも多いようです。

遺言で遺言執行者を定めた場合には、遺言執行者に預けておくことが適当なこととなります。

遺贈や相続分の指定により財産をあげることとした者に預けておけば、誠意をもって面倒をみてもらえるという感がえ方もあります。

ただし、自筆証書遺言の場合は、後に隠匿、改ざんといった面倒な問題にならないためには、遺産に何の利害関係をもたない公正な第三者に保管してもらうとよろしいでしょう。

弁護士に頼んでその事務所で預かってもらうのも一案です。

弁護士は書類の保管には気を使っていますし、守秘義務についても厳密ですので安心でしょう。

また、取引銀行で預かってもらのも一案です。

『封緘預かり』と、貸金庫という制度がありますので、どりらでも安心ですので、どちらでもよろしいかと思います。

ただし、これらの制度は銀行と取引先(遺言者)の寄託契約あるいは金庫の賃貸借契約と解されていますので、遺言者の死後遺言書を返してもらうには相続人全員の同意のあることを証明する書面を必要とすることになりますので注意が必要です。


以上、『遺言書を他人に預かってもらう場合』について、お話させていただきました。

    

 遺言書の開封について・・・(2017・1・19)

本日は、『遺言書の開封』について、お話させていただきます。

遺言書を発見した場合には、封印(遺言書が封筒に封入され封に押印のされたもの)のあるものは、すぐに開封してはいけないこととなります。

遺言は、身分関係や財産関係に大きな影響を与えるものですから、公正証書遺言を除いて、家庭裁判所で開封(封印のある遺言書についてだけ)し、検認という手続きをふまなければなりません。

遺言が二通以上でてきたときは、効力としては新しい日付のものを優先しますが、開封や検認の手続きはすべてについてしなければならないこととなります。

1 開封は家庭裁判所で

封印のある遺言書は、家庭裁判所ですべての相続人またはその代理人が立ち会わなければ開封できないこととなります。

もっとも、ある相続人が家庭裁判所での立ち会いに応じない時は、その相続人の立ち会いなしに開封することはできます。

封印のない遺言書には、このような手続きの必要はありません。

2 家庭裁判所で検認を受ける。

公正証書による遺言書以外はみな、家庭裁判所にその遺言書を提出して『検認』という手続きを受けなければなりません。

『臨終遺言』や『船舶遭難時遺言』で家庭裁判所の『確認』を受けたものでも同様となります。

封印のある遺言書については、開封の手続きと一緒に行うこととなります。

以上、『遺言書の開封』について、お話させていただきました。


遺言書の検認の内容について・・・(2017.1.21) 

本日は、『遺言書の検認に内容』について、お話させていただきます。

1 検認とは

『検認』とは、遺言書の偽造変造を防ぎ、遺言書を確実に保存するために行う手続きです。

家庭裁判所が遺言書の用紙や枚数、ペン書きか毛筆か鉛筆か、遺言の内容、日付、署名、印などを調べて検認調書といわれる記録を作ります。

ですから、偽造や変造余地のない公正証書による遺言は検認の手続きを必要としないのです。

検認の手続きには、家庭裁判所は、相続人やその他の利害関係人を立ち会わせ、立ち会わなかった相続人・受遺者等には検認したことを通知することとなります。

2 検認と遺言の効力は無関係

開封や検認は、遺言書の偽造変造を防ぐための手続きとなりますので、遺言書が有効か無効かということとは関係はありません。

検認を経たからといって、その遺言が有効なものと決まるわけでなく、別に民事訴訟などで無効とされることもあります。

逆に勝手に開封したり、または検認を受けなかったからといって有効な遺言書が無効になるわけではありません。

3 開封や検認を受けなかった場合

封印のある遺言書を勝手に開封したり、検認を請求しなければならない者が遺言書を家庭裁判所に提出しなかったり検認手続を経ないで遺言を執行したときは、一定の過料に処せられることとなります。

さらに、遺言書の提出、検認を怠るばかりでなく、相続人がこれを偽造・変造・破棄あるいは隠匿したりすると、その相続人は相続欠格者として相続人となれなくなりますし、相続人以外の受遺者がそのようなことをすると、受遺資格を失い遺贈を一切受けられないこととなりますので、注意を要します。

以上、『遺言書の検認の内容』についてを、お話させていただきました。


 遺言執行者について・・・(2017.1.22)

本日は、『遺言執行者』について、お話させていただきます。

1 遺言の執行に遺言執行者が必要となる場合

遺言の執行が必要となる場合、その内容によって、法律により『遺言執行者』が遺言の執行をしなければならないと定められているものと、そのような定めのないものとがあります。

必ず遺言執行者により執行しなければならないのは、認知と推定相続人の廃除および廃除の取消しとなります。

これらの行為は相続人の相続分に大きな影響を与える行為ですから、相続人自身の手で行うことは妥当でないと考えられるからです。

遺贈や財団への財産への拠出は、相続人が行ってもよいのですが、相続人の利益に反することもありますので、その場合は遺言執行者を設けて執行させた方がよろしいでしょう。

遺贈の場合の登記では、遺言執行者がいた方が便利です。

銀行預金の払い戻しも、公正証書遺言で遺言執行者がいる場合はスムーズにいくこともあるようです。

2 遺言執行者は遺言により指定することができます。

指定するのには、予め、その人の同意をえておく必要はないこととなります。

遺言執行者の指定を第三者に委託することもできます。

ただし、未成年者および破産者は遺言執行者にはなれません。

相続人を遺言執行者とすることは、遺言執行者をおく趣旨に反する場合(例:相続人を廃除する遺言の執行)は認められないこととなりますが、その他の場合は可能です。

相続人が多勢いる場合、その1人を遺言執行者にすることは迅速な処理から意味のあることです。

遺言執行者に指定された人は、遺言執行者を受けるかどうかは自由です。

辞退してもかまわないこととなります。

辞退しようとする人は、その旨を相続人に意思を伝えれば(口頭でも文書でも)よいこととなります。

3 相続人、受遺者などの利害関係人は遺言執行者の選任を申し立て、遺言の実行をしてもらうこともできます。

遺言執行者がいないとき(指定された人が辞退したときも含む)、または死亡などでいなくなったとき、相続人や受遺者などの利害関係人は家庭裁判所に請求をして遺言執行者を選任してもらうことができます。

遺贈を受けたが相続人が財産をかかえ込んでしまって、なかなか遺言を実行してくれないといった場合には、直接相続人を相手にして調停や訴訟を起こすこともできますが、場合によっては遺言執行者を選任してもらって、遺言執行者に遺言内容を実現してもらうのも一つの方法となります。

遺言執行者の選任の請求は、相続開始地(被相続人が亡くなるときに住んでいた土地)を管轄する家庭裁判所に審判の申し立てをして行います。

家庭裁判所では、非公開で申立人や相続人などから事情を聴いて、遺言内容やその執行の難易などの事情を勘案して遺言執行者を選任します。

場合によっては、弁護士を執行者に選任することも少なくありません。

以上、『遺言執行者の指定等』について、お話させていただきました。

    

 遺言執行者の権利と義務、解任と辞任について・・・(2017.1.23)

本日は、『遺言執行者の権利と義務、解任と辞任』について、お話させていただきます。

1 遺言執行者の権利と義務

遺言執行者が最初に行わなければならないのは、相続財産の財産目録を作って、これを相続人に渡すこととなります。

その次に、遺言執行者は、相続財産の管理をしつつ、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務があります。

たとえば、遺贈の実行としては、不動産の登記名義変更の手続きや引き渡し、動産の引き渡しなどのほか、相続財産の管理としては、賃貸不動産等が有ればその賃料の取り立てやその他の債権の回収などがあります。

必要なときには、調停や訴訟を起こしたり、その逆として訴訟の被告となることもあります。

遺言執行者にはこのような権限と義務が与えられている半面、相続人は、相続財産の処分など、この遺言執行者の執行を妨げるような行為はできなくなります。

相続人が、これに反して行った相続財産の処分等の行為は無効となります。

ただし、遺言が特定の相続財産についてだけなされた場合には、前記した遺言執行者の権限・義務および相続人の財産処分についての制限は、その特定の相続財産のみに適用されます。

たとえばある土地の遺贈についてだけ遺言があったときは、遺言執行者はその土地についてだけの財産目録を作り、管理、執行すればよいこととなり、相続人もそれ以外の財産を自由に処分することが出来ることとなります。

遺言執行者はやむを得ない事由があるときは、第三者にその任務を自分に代わって行わせることができます。

遺執行者がその任務を怠ったとき、その他の正当な事情があるときは、相続人・受遺者などの利害関係人は家庭裁判所に請求して遺言執行者を解任してもらうことができます。

反して、遺言執行者は正当な事情があるときに限って、家庭裁判所の許可をもらって、辞任をすることができます。

遺言執行者の報酬は遺言で定められていればそれに従って、遺言で報酬について何もふれていなければ家庭裁判所に適正な額を決めてもらうこととなります。

遺言執行につき費用がかかれば報酬とともに相続財産の中から支払われることとなります。

ただし、この費用は、被相続人の債務には該当しないので、税務上の控除は出来ないこととなります。

なお、遺言の執行が終わったなら、遺言執行者はすぐにそのことを相続人に通知しなければならないこととなります。


 負担付遺贈について・・・(2017.1.24)

本日は、『負担付遺贈』について、お話させていただきます。

1 負担付遺贈とは

例えば、『自分のA不動産を甲に与える。その代わりに甲は乙に金1000万円を与えなければならない。』というように、遺贈といっしょに一定の法律上の義務を負わせる遺贈を『負担付遺贈』といいます。

このような遺贈も有効に認められることとなります。

この場合の遺贈を受ける人(上記の例の甲)を『受遺者』、受贈者から利益を受ける人(上記の例の乙)を『受益者』といいます。

負担付遺贈には、一定の財産を他の人に与えよ、といった内容のものが多いのですが、法律上有効な義務を負わせるものであれば、『小学校へ寄付をしろ』、『甥の債務を免除しろ』といったような内容とすることもできます。

2 負担付遺贈の受遺者は自由に放棄できます。

負担付遺贈の場合でも、普通の遺贈と同じように、放棄することは自由です。

負担付きだからといっても、一方的・強制的に遺贈を受けなければならないというわけではありません。

放棄をするには、遺贈義務者(相続人や遺言執行者)に対して『放棄する』といえば足ります。

受遺者が放棄すると、受益者が代わって受遺者となります。

例えば、『遺産を贈る代わりに叔父の面倒をみてくれ』という遺言の場合には、最初遺贈を受けていた人が放棄すれば叔父さんが遺贈を受けることとなります。

このような処理をすることがもっとも遺言者の意思にそうであるものと考えられます。

したがって、遺言者が遺言で別の意思を表示していれば、それに従うこととなります。

新しく受遺者になった受益者(上記例の叔父さん)は、普通の受遺者と同様、自由に放棄あるいは承認ができることとなります。

以上、『負担付遺贈の内容』についてを、お話させていただきました。
      

 負担付遺贈について②・・・(2017.1.25)

本日は、『負担付遺贈の内容』についてを、お話させていただきます。

1 承認・放棄は負担の内容をはっきりさせたうえで決めましょう。

負担の内容によっては、その具体的内容がはっきりしない場合があります。

たとえば、『叔父を扶養してくれ』というような漠然としたような場合です。

この場合の扶養の内容は、遺贈される財産の規模や叔父の本来の扶養義務者(たとえば、叔父の子供がある場合のその子供)がいるかいないか等、いろいろな事情を総合して判断することが重要です。

なによりも、その叔父さんと直接、お話して扶養のあり方を確認しておくことが不可欠です。

この負担付遺贈の承認や放棄は、このような負担の内容を具体的にはっきりさせたうえで決めることが大事です。

逆にいいますと、負担付遺贈をしようとする人は、後々の関係者間でのトラブルが起きないように、負担の内容をできるだけ具体的に定めておくことが必要なこととなります。

2 受遺者が負担を実行してくれないときは履行請求や遺贈の取消請求ができます。

受遺者が遺贈の承認をしたのに負担である義務を実行しないときは、遺言者の相続人および遺言執行者は受遺者に対して義務の実行を請求し、訴訟に訴えることもできます。

さらに、相続人・遺言執行者は、相当の期間を定めて受遺者にその負担である義務の実行を請求して、それでも実行されないときは家庭裁判所にその遺贈の取消しを請求することができることとなります。

この請求は、家庭裁判所への審判の申し立てにより行います。

審判で負担付遺贈が取消された場合は、受遺者が受けるべきであった財産は、遺言者が遺言で特に意思表示をしていない場合は、相続人のものとなります。

     

 貸地と貸家の相続について・・・(2017.1.26)

本日は、『貸地と貸家の相続』について、お話させていただきます。

1 契約はそのまま引き継ぐ

貸地、貸家を相続する場合、相続人がそのまま貸主たる地位を引き継ぐこととなります。

従来からの契約条件に変更は生じないこととなります。

被相続人の死亡後から遺産分割前までの賃料は相続人間の共有となります。

各相続人の所得税の申告義務が生じることとなりますので、注意をすることが必要となります。

遺産分割が完了した後は、その土地、建物を取得した人が地主、家主となるわけです。

賃借人が混乱しないように、登記をしたうえで遺産分割が行われた旨を記した新所有者の挨拶状(通知書)を送付しておくといいいでしょう。

2 借主の側の対応

地主、家主が死亡して、遺産分割がまだなされていないときは、実際に土地、建物を管理している相続人を窓口として、その人が全相続人の代表であることを確認したうえで、賃料を払えば足りることとなります。

遺言の効力に争いが生じるなどして新しく地主、家主になったと名乗りでる人が複数ある場合や、相続人が不明なときの場合は『債権者を察知することができない』場合として、賃料を供託することができますので、このようなケースでは、二重払いさせられないためにも、供託しておいた方が安全ではあります。

供託は地主または家主の住所地の法務局で手続きすることとなります。

供託を考えれる際には、あらかじめ、法務省のホームページの案内等で確認されておくといいいでしょう。

本日は、『貸地、貸家の相続』についてを、お話させていただきました。

      

 債務返済中の住宅の相続について・・・(2017.1.27)

本日は、『債務返済中の住宅の相続』について、お話させていただきます。

住宅ローンを利用して購入した住宅を相続する場合は、次の点に留意しましょう。

1 団体生命信用保険の加入している場合

最近の住宅ローンはのほとんどは、生命保険付となっています。

これは住宅ローンを取り扱う銀行等が保険契約者兼保険金受取人となって、住宅ローンの債務者全体を被保険者団体として生命保険会社と一括して生命保険契約を締結するものです。

住宅ローンの借主が死亡や高度障害になったときに保険金が支払われて、残債務の支払いにあてられるものです。

この場合には、債務残額はゼロとなるような仕組みとなっていますので、相続人にこの住宅ロ―ンの負担が遺されることはありません。

また、相続人に対して債務免除等などを理由とした所得税がかかることもありません。

この場合には、住宅の相続税がかかるだけとなります。

2 債務が残るような場合

銀行ローンの抵当権が設定された住宅について、相続人間での遺産分割協議により相続人甲が相続したとします。

このような場合は、銀行ローン(債務)についても甲が相続するということが通例となりますが、銀行が承諾しなかった場合は、他の相続人も、法定相続分に応じて、債務を支払う義務を負うこととなります。

この甲に、支払い能力があって相続開始前と同様に、債務を支払うことが期待される場合には、銀行も承諾しますが、甲が幼少であることや、その支払いに不安があるときは、承諾しないこともあります。

このような場合には、資力のある他の相続人が甲の保証人になるなどして、銀行などの債権者に承諾をしてもらうこととなります。

3 返済条件の変更

債務の相続については、銀行の承諾はえられたはしたものの、返済条件が厳しいときには、銀行にに対して返済条件の変更を要請しなければならないこともでてきます。

例えて言うと、月々の支払額やボーナス時の支払額を減額してもらうには、返済期間を最長10年以内で延長してもらう方法があります。(リスケジューリングといいます。)

その銀行と話し合いがつかない場合でも、その債務を引き継いだ相続人の返済条件で融資してくれる銀行があるときは、その銀行の融資を受けて、現在の貸主である銀行に債務を返済して、抵当権の登記を抹消してもらう方法はあります。

この場合には、新しく融資した銀行が、新たに抵当権を設定することとなります。

以上、『債務返済中の住宅の相続』についてを、お話させていただきます。

    

 遺産分割がもめた場合の解決方法①について・・・(2017.1.28)

本日は、『遺産分割がもつれた場合の解決方法①』について、お話させていただきます。

1 調停の申し立て

調停の申し立ては、相続人の一人から、他の相続人全員を相手方として、他の相続人の住所地を管轄する家庭裁判所あてに行います。

相手方である相続人が各地に分散しているときは、その中の一人の住所地にあわせて申し立てることができます。

調停の申し立ては、家庭裁判所に備えてある用紙に必要事項を書き込むだけですから誰でもできます。

書き方がわからなければ窓口で教えてくれますし、裁判所のホームページでもフォーマットや解説を見ることができます。

最近は申し立てをすると、申立人と相手方全員に裁判所からくわしい『紹介書』が送られてきて、回答を用紙に記入して提出させる扱いが増えてきています。

これは、裁判所が早期に全体の問題点を把握して、調停を円滑に進める参考資料とするためです。

分割についての希望を書く欄も設けられていますが、調停の中で意見を変えることもできますので、一応の希望を書いておくこととします。

2 調停への進み方

調停を申し立てた場合、家事審判官(家庭裁判所裁判官)一名と調停委員二名以上で構成される調停委員会が調停を担当することとなります。

調停の期日が決められて(第一回調停は申し立てからおおむね二ヶ月以内)、相続人に通知があります。

期日には、原則、本人が出頭することとなりますが、やむを得ない事情があるときは、弁護士たる代理人が出頭するのであれば本人が出頭しなくても足りることとなります。

なお、正当な理由がなく出頭しないときは五万円以下の過少に処せられるとしています。(家事審判法二十七条)

調停委員は、通常男女各一名であり、期日は、まず各相続人からそれぞれ事情を聴くことから始まります。

これは、非公開となりますので、自分のいいたいことを普段の話しかたで話せばいいのです。

ただ、自分のいい分を良く理解してもらうように整理したうえで話すことは重要でしょう。

双方同席で話し合うケースもあれば、同席することなく行うケースもあります。

同席しないケースでは、相続人は調停室と控室を交互に往復して、調査委員会を媒介役として話し合いが行われます。

調停委員は、相続人らのいい分を聴いて、第三者の立場にたって、客観的に妥当な解決を図るべくリードしていきます。

遺産分割協議では、遺産の鑑定評価が行われることがあります。

不動産鑑定士などの鑑定の専門家が、鑑定の評価を行って、遺産を評価するわけです。

この鑑定には、実費の鑑定費用がかかってきます。

その他、証拠調べや家事調査官による事実調査が行われることもあります。

相続人間での協議がまとまると、裁判官および調停委員の立ち会いのうえ、調停が成立したことを確認して、調停調書が作成されることとなります。

調停証書は確定判決と同様の効力が生じます。

調停で相続人間の話し合いがまとまらないときは不調となり、調停は終了して、家事審判の手続きへの移行となります。

以上、『遺産分割がもつれた場合の解決方法①』について、お話させていただきました。

 

 遺産分割その他の注意点について・・・(2017.1.29)

本日は、『遺産分割のその他の注意点』について、お話させていただきます。

1 相続人の一部を除外して行った遺産分割協議は無効

遺産分割協議は、相続人全員で行うことが必要となります。

つまりは、相続人の一部が除外されて行われた遺産分割協議は無効となります。

除外された相続人は、あらためて、遺産分割協議を行うように他の相続人に対して請求することができることとなります。

他の相続人が、その請求に応じないときは、遺産分割の調停ないし審判を申し立てることができます。

ただし、ある相続人が遺産分割に加えられなかった原因が、戸籍の上で、その相続人と被相続人との親子・兄弟などの関係が記載されていなかったためであるとするならば、その相続人は、まず家庭裁判所へ身分関係存在確認の訴えを起し、判決をえて戸籍の記載を訂正しておかなければならないこととなります。

2 死後に認知された相続人の場合

遺産分割の終了後に、判決によって認知された相続人があらわれたり、認知の遺言が発見されたという場合については、すでになされた遺産分割をやり直して遺産の一部を現物で分けてもらえることはできずに、この場合は相続分にあたる価額の支払いを他の相続人に請求することができるだけとなります。


 以上、『遺産分割のその他の注意点』についてお話させていただきました。


 遺産分割のやり直しについて(2017.1.31)

本日は、『遺産分割のやり直し」について、お話させていただきます。

1 合意解除

遺産分割協議を行ったのちに、やり直しをしたいという場合に、民法上は全員の合意で解除して、再度遺産分割することは可能です。

ただし、税務上は、『やむをえない事情』があると認められない限り、この合意解除は認められず、この再分割は、一旦取得した財産の移転と考えるため、贈与税や譲渡所得税の課税があることへの注意が必要です。

2 債務不履行による解除

父が死亡し、妻と子供3人が相続した際に、子供のAが妻の面倒をみるという前提で、多くの財産を得る遺産分割協議がまとまった場合において、その後妻が子Aと喧嘩して、他の子供と暮らしているという場合、この遺産分割協議は解除できるので
しょうか?

判例では、最高裁平成元年二月九日の複数の者の合意により成立した遺産分割協議を一部の者の不履行により解除することは、法的安定性を著しく害するために認められないとしたものがあります。

解除は、民法上は、債務不履行があれば解除は出来ることとなってはいますが、上記の場合、何が債務で、どこまで履行すれば履行したことになるのかが不明確であることから、この判決で妥当とする意見と、公平性の観点から解除を認めるべきとの意見もあります。

3 錯誤による解除

他の相続人に騙されて、法定相続分より少額な遺産分割に合意した場合、遺産分割が錯誤により無効となることを認めた裁判例があります。(東京高裁平成11年1月22日判決)

以上、『遺産分割のやり直し』について、お話させていただきました。


 借金の相続回避について(2017.21)

本日は、『借金の相続回避』について、お話させていただきます。

1 借金も相続の対象

相続の効力は、被相続人が死亡した瞬間に、相続人の意思とは関係なく生じることとなります。

このとき、相続されるのは、被相続人の財産上の権利義務一切となりますので、借金も当然に相続されることとなります。

ただし、相続人が自分に関係のない借金に苦しまれるのは気の毒であるし、債権者は本来相の資産をあてにするべきものではありません。

そこで、民法は、このような場合、相続人が被相続人の借金を引き継がない方法として、次の二つの制度を設けています。

①相続の放棄

相続の放棄をすると、その相続については、はじめから相続人とならなかったものとみなされることとなります。

この場合は、借金はもちろん、およそ相続財産の一切を相続することが出来なくなります。

ですから、借金を引き継がないために放棄するときは、相続財産を十分調査してからでないと損をすることになりかねない場合がありますので、慎重な注意が必要です。

②限定承認

限定承認とは相続財産の中で借金のほうが多いときは、相続財産の範囲でその借金を返済すればよく、もしその反対に借金が少なければ、借金を払った残りの相続財産を受けることができるという制度です。

以上、『借金の相続回避』について、お話させていただきました。


放棄、 限定承認他の注意点について

本日は、『放棄、限定承認他の注意点』について、お話させていただきます。

1 財産を処分すると放棄や限定承認は出来なくなります。

相続財産の全部または一部を処分してしまうと、相続放棄や限定承認をすることはできなくなります。

これは、財産の全部または一部を処分することにより、単純承認したものとみなされるからです。

単純承認とは、相続人が、被相続人の(一身専属的な権利を除く)一切の権利義務を包括的に承継することをいいます。

ただし、経済的重要性を欠いた形見分けや社会的にみて相当な範囲内の葬儀費用の相続財産からの支払い等は、一般には処分にあたらないと解されています。

仏壇や墓石購入のために被相続人の預金を解約することは『相続財産の処分』にあたるとは断定できないとした裁判例があります。

【大阪高裁平成14年7月3被判決】


2 相続債務の弁済は単純承認?

被相続人の死亡後に銀行の自動引き落としがされている場合には,すぐに手続きを取って支払いをとめれば、気付かないうちに引き落とされた分があっても『処分』とはみなされないことがあります。

相続債務を弁済することは、単純承認事由となるとする説と、相続財産全体からは現状維持となるので、『保存行為』として許されるという説が対立していますので、放棄を考えている時は、弁済をしないでおく方が安全です。

生命保険金の受領は、相続ではないので、生命保険金で被相続人の債務の一部を弁済したとしても、相続財産の処分にあたらないとした裁判例があります。

3 相続放棄後に相続財産の全部または一部を隠匿・費消すると単純承認と扱われます。

相続放棄や限定承認後に、相続財産の全部または一部を隠匿したり、費消したり、悪意で財産目録に載せなかったりすると、単純承認として扱われます。

この場合の隠匿とは、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識して、相続財産の全部または一部の所在を不明にするようなことをいいます。

新品同様の洋服や毛皮を含む被相続人の遺品のほとんどすべてを持ち帰る行為は、相続財産の隠匿にあたるとされた事例があります。


以上、『放棄、限定承認他の注意点』について、お話させていただきました。

 相続放棄について・・・(2017.2.3)

本日は、『放棄の手続き』について、お話させていただきます。

1 相続放棄の手続き

相続の放棄は、自分が相続人となったことを知ったとき(一般的には被相続人の死亡を知った日となります)から三ヵ月以内に、被相続人の住所地の家庭裁判所に放棄の申述を行う必要があります。

相続放棄の申述書は、家庭裁判所に備えてありますので、被相続人と自分の戸籍を持参してその申述書に必要事項を記載して申述することとなります。

この三ヵ月という期間は、相続人が相続財産を調査したうえで放棄するか否かを考える期間となりますので、相続財産の調査に困難が伴うなどのときは、裁判所に申したてて延長をしてもらえることもあります。

家庭裁判所は、放棄の申述書が提出されたら、その本人を呼び出すか、または再度文書で照会して、本当に放棄をする意思があるかどうかの確認をとったうえで、申述書を受理するのが一般的です。

2 三ヵ月経過後であっても放棄が認められるケース

上記の放棄の延長の申し立ての手続きをとることなく、三ヵ月経過してしまった場合は、放棄をすることは出来なくなります。

ただし、相続財産がないものと思いこみ放置していたところ、債権者から保証債務の請求があったような場合などは、相続財産の存在を知ったときから三ヵ月以内に手続きを取ればよいとするのが、裁判所の考えです。

最高裁昭和59年4月27日判決は、民法915条の定める『熟慮期間』は、原則として、相続人が相続の開始の事実を知った時から起算すべきものとしつつ、相続人が、『三ヵ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対して相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、』『熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。』としています。

被相続人に保証債務があったケースが多くの問題となっています。

被相続人死亡時点で保証債務の存在を知らなかったために、被相続人の300万円ほどの預金を解約して、その一部で仏壇や墓石を購入した後に、三年もたった後に、6000万円ものの保障債務の請求を受けたケースがあります。

このケースでは、『相続財産の処分』にあたるとは断定できないとして、請求を受けてから三ヵ月以内にした相続放棄の申述を受理しました。(大阪高裁平成14年7月3日)

この他にも、色々な多種のわたるケースがありますので、その判断はわかれていますので、事前に専門の方へ相談されることを、お奨めします。

3 相続人が未成年者である場合

未婚の未成年者の法律行為は親権者が法定代理人として行うのが原則です。

ただし、相続に関する場合は、例えば父親が死んだ場合、その相続人である子供Aが未成年であった場合、通常の法律行為であれば、子供Aの法定代理人は、母親とするのが自然ですが、この相続の場合、母親も相続人であることから、母親と子供Aは利益相反の関係となりますので、母親は子供Aの法定代理人にはなれないこととなり、子供Aのために特別代理人を選任しなければなりません。

もっとも、母親が相続放棄をすれば、利益相反の関係ではなくなりますので、母親が子供Aの法定代理人となることに差し障りはないこととなります。

4 相続放棄の効力

相続放棄は、前回以前でお話しました通り、被相続人の死亡後に家庭裁判所に申述して行うもので、それ以外の方法では放棄の効力は生じないこととなります。

例えば、被相続人の死亡前に『財産はいりません』という約束をしても、法律上は無効となります。

そのような約束をした人が、相続開始後に相続権を主張した場合は、不当なようですがこれを認めざるを得ないこととなります。

5 相続放棄の取り消し

裁判所に放棄申述書が受理されたあとは、原則として放棄の取り消しはできないこととなります。

詐欺とか強迫により放棄したときなど、例外的な場合には取り消しが認められることはあります。

この取り消しも家庭裁判所に申述することとなります。

以上、『放棄の手続』について、お話させていただきました。


 限定承認について・・・(2017.2.4)

本日は、『限定承認に関する事項』について、お話させていただきます。

1 限定承認とは・・・・

限定承認とは、一言でいうと、借金を相続財産の範囲で清算するというようなものです。

そして、借金を清算して残りがあればそれは、相続できるというような制度です。

借金の方が多ければ、放棄してしまえばいいわけですので、この制度は、借金の有無や額が不明のときに役立つものとなります。

制度としては、大変ありがたいものですが、手続きが相続放棄とくらべて面倒なことと、相続人が二人以上いる場合には、一人でも反対する人がいたり、単純承認した者がいたりするとできなくなるという制約があることから、これまでは、ほとんど利用されてきませんでした。

2 限定承認の手続き

限定承認は、自分が相続人となったことを知った日(通常は被相続人の死亡を知った日)から三ヵ月以内に、被相続人の住所地の家庭裁判所に、限定承認の申述をしなければなりません。

この場合、家庭裁判所備え付けの用紙に必要事項を記入するほか、財産目録(相続財産と債務の内容を調査したもの)および被相続人と相続人の戸籍謄本を添付して提出します。

財産目録に悪意(債権者を害する意思)で財産を掲載しなかったときは、単純承認とされてしまい、限定承認とは認められないこととなります。

債務の不記載もこれにあたるとされていますので、注意が必要となります。

相続人が複数人いる場合には全員で申述することが必要です。

3 清算の手続き

限定承認の申述が受理されると、清算手続きに入ります。

相続人が一人のときはその相続人が、数人あるときはそのうちの一人を相続財産管理人に選任して財産を管理することとなります。

清算は、財産を換価して、相続債権者に弁済することですが、財産が不足して全額の弁済ができないときは、債権額の割合に応じて配当することとなります。

この換価は競売によることが原則となります。

この競売は、『換価のための形式競売』と呼ばれており、手続きは担保権の実行としての競売手続きに従うこととなります。

不動産の場合は、相続登記を行ったうえで、競売申し立てを行います。

以上、『限定承認に関する事項』について、お話させていただきました。

    

不動産の相続登記について・・・(2017.2.7)

 今日は、『不動産の相続登記』について、お話させていただきます。

1 不動産を相続した場合の登記について

不動産を相続した場合、遺産分割が終わるまでは、全相続人の共有のものとなります。

早期に遺産分割が出来るときは、被相続人の名義から直接に、分割により取得した相続人の名義相続による所有権移転登記をすればいいわけです。

いったん全相続人の共有名義にしておく必要はありません。

2 遺産分割による登記の手続き

遺産分割により土地・建物などの不動産を取得した場合は、必ず登記をしておきます。

登記手続きは、必要な書類をそろえて、その不動産を取得した相続人が、不動産所在地の法務局に申請することとなります。

不動産の登記は司法書士を代理人して申請するのが通常です。

登記には登録免許税がかかります。

これは課税価格に一定の税率を乗じて計算しますが、課税価格は、固定資産評価額(固定資産税の計算の基礎となるもの。各市町村で証明書の発行をしています。)によっています。

以上、『不動産の相続登記』について、お話させていただきました。


 遺言による登記のしかたについて・・・(2017.2.6)

本日は、『遺言による登記のしかた』について、お話させていただきます。

1 『相続させる』とした遺言のケース(相続人が対象)

公正証書遺言であって、なお、取得する財産が明確に記載されているときは、遺言書に記載された者によって単独で登記申請がすることができます。

必要な書類は遺言公正証書正本、遺言者の戸籍謄本(死亡の事実が示されているもの)、取得者の戸籍謄本(相続人であることを証するため)と住民票となります。

公正証書遺言以外の遺言であっても同様に扱われているようです。

ただし、公正証書以外の遺言は作成の真正が証明されていない私製証書となることから、公正証書以外の遺言による単独申請を認めることに、問題があるとの議論もだされているようです。

2 『遺贈させる』とした遺言のケース(基本的には相続人以外が対象)

公正証書遺言か否かに関係なく、受贈者(遺贈を受けた人)と遺言執行者(指定されていないときは全相続人)との共同の申請となります。

この場合、1の必要書類のほか、権利証(または登記識別情報)、遺言執行者の資格を証する書面(遺言書、家庭裁判所の選任審判書)および、遺言執行者の印鑑証明書が必要となってきます。

遺言執行者が選任されていない場合は、全相続人の共同申請となりますので、戸籍謄本類と全相続人の印鑑証明書が必要となってきます。

なお、相続による場合の登録免許税は課税価格の1000分の4となりますが、遺贈の場合は、登録免許税が課税価格の1000分の20(相続人が遺贈により財産を取得した場合は1000分の4)となります。

すなわち、相続人への遺言は、登記の手続きを考えると『相続する』と明記しておくことが懸命です。

以上、『遺言による登記のしかた』について、お話させていただきました。

     

 賃貸借契約①賃貸借と使用貸借他について・・・(2017.2.7)

本日は、『賃貸借契約①賃貸借と使用貸借』について、お話させていただきます。

1 賃貸借と使用貸借とは

通常は、土地または建物を借り受けるときはその使用の対価として、地代または家賃を支払います。

このような、対価の生じる借りたり、貸したりする行為を、法律では賃貸借といいます。

しかし、たとえば、父親が自分の土地に無償で子供の建物を建てさせてることがあります。

このように対価の授受がなくて貸し借りしていることを使用貸借といいます。

一般的に、金銭の授受がある場合とない場合とでは、サービスの内容に差があるのと同じで、使用貸借は賃貸借に比べて借りている側の立場が弱くなります。

その違いの顕著な差は、使用貸借は、原則として貸主はいつでも借主に対して契約の解除をすることができます。

使用貸借は、同族会社と社長個人間や親族間等の特殊な関係の場合が多いようです。

そして、不動産賃貸借の形態には、土地を貸し借りする借地、建物を貸し借りする借家があります。

また、建物の貸し借りには、一戸建てを借りる借家、アパートまたはビル等の1室を借りる貸室、さらに機能的に独立していない部屋を借りる間借りなどがあります。

『賃貸借契約①賃貸借と使用貸借』について、お話させていただきました。

続いて、『賃貸借契約の記載事項』について、お話させていただきます。

1 記載事項の概要

賃貸借は継続的に続く行為となります。

かつ、契約終了時には借りた物件を返還するという手続きが発生します。

売買行為では、契約締結から代金決済および引き渡しまでの比較的短い期間中のことについて考えれば済みますが、賃貸借では、長期に及ぶ賃貸借期間中に起きるであろう種々の問題に加えて、契約終了時における目的物件の返還という二つの事柄についての取り決めが必要となってきます。

また、賃貸借はものの貸し借りの契約ですので、当事者の人的要素の影響度が強いものとなります。

その結果、賃貸借契約書には借主側の行為制限に関する規定が多く設けられることとなります。

売買契約の場合は、どのうような物件でもほぼ一定の内容となりますが、賃貸借の場合は、目的物件が住宅、ビル貸室および店舗等の用途によって、かなり内容に差がでてくることとなってきます。

以上、『記載事項の概要』について、お話させていただきました。
     

賃貸借契約記載事項について・・・(2017・2・8)

本日は、賃貸借契約記載事項ポイント①について、お話させていただきます。

1 賃貸借の使用目的の表示

賃貸借契約書では、使用目的を定めています。

賃借人は、借りた建物を、その使用目的に合わせて使用する義務を負います。(用法遵守義務といいます)

賃貸借契約書に事務所と使用目的が定められているものを、店舗にすることは義務違反になります。

また、分譲地内の住宅のように、建物の構造および周囲の状況から自ずと使用方法が定まるものを、契約書に記載がないからといって、店舗にしたりすることも同様のこととなります。

契約書で使用目的を定めるのは、賃借人の用法遵守義務をはっきりとさせて不正使用を防ぐことを、目的としています。

2 賃貸借の期間は・・

建物の場合、賃貸借期間は1年とか2年とかの比較的短い期間が定められることが多いのですが、現実的には期間が満了した時点で終了することなく、更新されることが通常なこととなります。(定期借家制度を除く)

更新とは契約期間を延長することです。

更新には、法定更新と合意更新があります。

期間が満了するときに、当事者間で合意して行う更新を合意更新といいます。

ほとんどの場合、更新しない旨の意思表示がなければ、更新したとみなす法定更新により、期間が延長されます。

法定更新後は、次に説明する期間の定めにない賃貸借契約として扱われます。

賃貸人側から更新しないという意思表示(更新拒絶)や解約申しれをしても、実際に契約を終了させることは、なかなか困難なこととなります。

それは、賃貸人側に、その建物を自分で使う必要があるなどのもっともな理由(正当事由という)がないかぎり、法律上、更新拒絶や解約申し入れは認められないということによります。

その結果、契約当初に賃貸借期間を1年と定めても、事実上期限がないのとほとんど同じこととなってしまうことになります。

契約にあたって期間を定めないこともできます。

この期間の定めのない賃貸借では、当事者はいつでも解約の申し入れができます。

賃貸人からの申し入れであれば申し入れ後6ヵ月、賃借人からの申し入れであれば申し入れ後3ヵ月(民法上)が経った時点で契約は終了することとなります。

ただし、賃貸人からの解約が困難なことは、上で述べた通りです。

3造作買取請求権について

店舗の賃貸借では、賃借人が使用目的に沿った内装を行うことから、通常、全く内装を施さない、スケルトン貸しで引き渡されます。

事務所の場合いでも、基本的な内装工事に対して、賃借人が造作を加えることがあります。

賃借人は取り付けた造作を、賃貸借終了のときに賃貸人に時価で買い取るように請求ができます。

この請求できる権利を造作買取請求権といいます。

しかし、どのうようなものでも買い取れるというものではなく、法律上、その範囲を限定しています。

その範囲とは、建物を継続使用するにあたって客観的にみて役立つものとされています。

昔のれいでいえば、畳や建具などですが、現在では、縁側に取り付けた濡れ縁のようなものでしょう。

ここでは『客観的』という言葉がポイントとなります。

つまり、賃借人が主観的に価値を認めても一般的価値がないものは、該当しません。

造作買取請求権が問題となるのは、多くは店舗の場合です。

商品やブランドによっては、その内装や造作は個性が強く、次のテナントの方が前の内装をそのまま使うことは稀でしょう。

店舗の場合、スケルトン貸しが多いのは、このような事情の反映と考えられます。

造作買取請求権は、旧借家法では無条件に認められていましたが、借地借家法では、当事者間の取り決めで、賃貸人の買取義務を免除することができるようになりました。

以上、『賃貸借契約記載事項ポイント』について、お話させていただきました。


 賃貸借契約 保証人と連帯保証人の違いについて・・・(2017.2.9)

本日は、『賃貸借契約 保証人と連帯保証人の違い』について、お話させていただきます。

1 保証人と連帯保証人の違い

賃貸借契約では、当事者として賃貸人および賃借人のほかに、賃借人の連帯保証人が加わるのが通常です。

連帯保証人とは、賃借人が債務を履行しないときに、連帯して債務を履行することを保証した人間です。

たとえば、賃借人が賃料を支払わないときには、連帯保証人が代わって支払わなければなりません。

法律上、『連帯』という言葉は非常に重要な意味を持っています。

連帯保証人と単なる保証人では責任の程度が大きく違います。

単なる保証人の場合には、自分が支払う前に、まず本人から取ってくれということができます。

しかし連帯保証人の場合には、本人と連帯して同じ立場にあり、本人から先に取ってくれといえず、いきなり請求を受けて

それを拒否できないこととなります。

以上、『賃貸借契約 保証人と連帯保証人の違い』について、


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